第 4 章
静かなる水面
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「あたしが許すわ。100キロ出して!」
「ふざけるなぁ!」
握りこぶしを前方に突き出して叫ぶ妹に、聖輝は頭が痛くなりそうだった。
何の因果で、こんなわがままな妹の兄貴なんてやっているのだろうかと、最近時々思う。
溜め息ひとつついて、わずかながらアクセルをふかした。100キロは出せないが。
のどかな田園風景が広がる干拓地。
ビール麦の黄金色の穂が波打っていた。その中を突っ切る農面道をただひたすら走った先に、美奈の通う学校があった。
「それじゃあ、帰りは4時でいいから」
「バスで帰ってこい」
言い残して、聖輝は美奈を置き去りに車を出した。
ふざけた妹ではある。
が、今の聖輝にとって、掛け替えのない存在のひとつであった。
自分が現在に縛られる枷のひとつであると知りながらも、それさえもが愛おしいと思えてならないのだった。
失うつもりはなかった。
たとえ、裏切り者と言われようとも。
聖輝は、ほんの三日前のことを思い出していた。
あの、竜神の谷で出会ったかつての仲間達のこと。
そして――。
* * *