第 4 章
静かなる水面
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「お兄ちゃん、顔なんて洗っている場合じゃないのよ。早く早く」

 時計の針は既に8時20分を指している。確か40分から授業開始の筈だ。遅刻寸前だった。

「だったらもう少し早く起きて、自分で行けばいいだろう」
「あたしだって、たまには寝坊するわよ」
「遅くまで漫画なんて読んでいるからだ」
「あーもう、お説教だったら帰って聞くから、早くしてぇっ!」

 美奈の声は、次第に悲鳴に変わって行った。

 面白がって見やる聖輝の目に、ふと、テレビのニュース画面が映った。

 それは九州の阿蘇山だった。活火山で、以前からよく噴火を繰り返してはいたが、今回の噴火の規模は異常だった。

「何があった…?」

 自然と口をついて出た言葉に、美奈が早口に答える。

「昨日からニユースでやってるじゃない。近世にない大噴火を起こして、付近の町を巻き込んで、大惨事になってるって。知らないの?」

 火の国阿蘇は、かつて炎竜の支配していた地域だった筈。

 と、思いかけて聖輝は思考を中断した。

 関わりになるまいと決めたのだった。

 聖輝は車のキーを握ると、せかす美奈に従って玄関を飛び出して行った。


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