第 3 章
炎竜
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外に目をやると薄紫色に見える竜が誘うように舞っていた。その足元に溢れている黒い煙は何のものなのか。
心配そうに眺める杳に背後から声を掛ける者があった。
「炎竜は放っておいても大丈夫でしょう。負けっこないもの」
杳はその声の主に目を走らせる。
「あんたか…」
寛也がいなくなると途端に姿を現したのは、思った通り茅晶。それまでどこにいたものか、きっとこちらの様子をずっとうかがっていたのだろう。
茅晶は杳の座した向かいの席に座る。
「でもよく我慢したわね。貴方も一緒になって飛び出していくものと思っていたわ」
「ふんっ」
行ったところで役たたずなのは分かっていたので、ついていかなかったまでのことである。
「で、次は水竜ってわけね。どうやって捜すの? アテはあるの?」
「知らない。珍しい名前だから県内の電話帳めくって片端から掛けていけば、そのうち見つかるだろうっていうのが寛也の意見」
はっきり言ってそういう草の根作戦は得意ではない。そう言うと茅晶は場所もはばからず大声で笑い出した。
「まったく、貴方達ってば面白いこと」
「笑う間に何かいい方法でも教えろよ。寛也の時みたいに何か知ってんじゃないの?」
「知っていたら先にそっちへ回っていたわよ。いいんじゃない? 静川っていう氏、ありそうでない名前よ。案外早くに見つかるかも」
「だからって、何冊めくればいいんだか」
言うとおり寛也が杳の到着すると同時に着くのなら、彼にその仕事のすべてを任せようと考える杳であった。
* * *
「ふふふ、やっぱり来たわね」
赤い炎を背に雪乃は待っていた。既に町は炎に飲み込まれ、逃げ惑う人影すら見られなかった。町一つ彼女はいとも簡単に破壊してのけたのである。
「きさま、何てことを…」
震える体は怒りの所為。ふつふつと雪乃に対する怒りが込み上げてくる。
「私が火をつけたわけじゃないわ。ただ煽っただけ。馬鹿な人間達の不注意で炎上したのよ」
白々しい。
「それに火は私の領分じゃないわ、炎竜」
それとこれと何の関係があるのか。自分のしでかしたことを他人の所為にでもするつもりか。
「人間なんてつまらない生き物よ。地上をはいずり回ることしかできないくせに、自分達がこの世の王者でもあるかのような顔をする。そのくせ同族同士で無益な殺し合を繰り返して。醜くて我がままで。貴方が味方する価値なんてありはしないのよ」
そう言った雪乃の顔には暗い影がよぎる。以前にも感じたことだった。雪乃の人間に対する感情は憎悪に包まれていた。何が彼女をこうさせてしまったのかは分からない。しかしかと言って許されないことは同じであった。
「この町の人達が貴様にいったい何をしたっていうんだ。無意味に殺戮を繰り返したって人界を治めることにはつながらないんだぜ。貴様らのしようとしていることは統治なんかじゃない。侵略じゃねぇか。そんな無法を俺は許さないっ!」