第 3 章
炎竜
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バキバキと弾ける音がして、寛也の身体を覆う空気が火を帯びる。雪乃が気付いて身を避けたと同時に、寛也の周囲で燃えていた炎が雪乃めがけて塊となって飛んできた。
一瞬の差で逃れることができたものの、今し方まで自分が立っていた地面が黒く焼け焦げ、えぐれているのを目にして、背筋を冷たいものが走った。
「いつの間に、こんな…」
雪乃はもう一度寛也を見遣る。半覚醒のままだと思っていた寛也の瞳に、かつての仲間そのものを見いだした。
「炎竜…」
震える声がかすれ出た時、雪乃の身体を紅蓮の炎が取り巻いていた。熱さに悲鳴の上がるのを押さえて必死の思いで雪乃は紫色の珠玉を握り締めた。
炎の塊を突き破って紫色の竜身が空へ舞い上がった。
「逃がすかっ」
寛也も自らその身を赤く光らせ始める。
二体めの竜が天へ昇っていった。
* * *
『貴様は許さない』
そう言って炎竜の身体は赤く光を帯びる。と、紫竜を守るかのように薄紫の花弁が舞い、炎竜を襲う。
『同じ手をくうか』
一瞬にして花弁は炎と化し、塵と消える。空気が熱を帯びる。脅えたように怯み、後退する華竜に炎竜は迫る。
炎竜は念を込める。
幾つもの炎の塊が空気の中から生まれた。と同時にそれらの一つ一つが華竜めがけて襲いかかる。華竜は元々さしたる戦闘能力を備えていなかった。どちらかといえば平和の象徴としてその身をおいていた。炎竜と剣を交えること自体無謀と言えた。
『とっとと降参した方が身のためだぞ』
しかし華竜はそんな気配は表さなかった。
まともに戦っては勝ち目なしと見越したのか、華竜は今度は地上にむけて降下していった。当然炎竜も後を追う。
地上に激突寸前、華竜の姿が消えた。あっと思った時には炎竜の体は地面を大きくえぐりとっていた。
ちっと、舌打ちして上空へ舞い上がると、炎竜は雪乃の姿を捜す。
その時だった。
上空にいてもはっきりと見て取れるほどの地鳴りとともに、中岳が再び噴火を始めたのだった。しまったと気付いたのはその時になってからだった。
噴火は並の規模ではなかった。そして炎竜は思い出す。この地は我が身そのものだったと。自分が怒ればそれに触発されて大噴火を起こすことも有り得ることを。近くにいすぎたのが失敗だった。
耳をつんざく轟音をとどろかせながら、地の底から熔岩流が吐き出す。それに触発されたのか地面が揺れながら盛り上がった。かと思うといきなり噴煙を吹き上げ始めた。
『見るがいいわ。これが破壊と殺戮、戦の象徴として崇められてきた炎竜の忌まわしい力なのよ』
どこから聞こえるのか、華竜の嘲笑が木霊した。
燃えただれた岩石が飛び交う間を薄紫色の花弁が舞っていた。