第 3 章
炎竜
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特急列車と新幹線を乗り継げば今日中には目的地までたどり着けるだろうと判断して、寛也と杳の二人は駅へ向かった。
せっかくここまで来て観光の一つもして行けないのかと言ったのは杳であったが、寛也も同意見であったため何も言わずに聞き流した。
「岡山に着くのって夜の八時近くになるよ」
時刻表をめくりながら杳がそう言うのを聞いてうんざりした。六時間も列車に揺られるというのだ。考えただけで気分が悪くなる。渋い顔をしていると、杳が名案とばかりに手をたたいて言う。
「それならいっそのこと昼間は観光して、夜暗くなってからヒロあんちゃんの背中に乗って岡山へ帰るっていうの、どう? 安上がりだし、早いしぃ」
「ちょっと待て、おまえ」
呑気な顔をして言う杳の腕を掴むと、ズイッと引き寄せて小声で言う。
「この一刻を争う時にいいかげんにしておけよ」
「だって遊んでても列車に乗ってても同じじゃない。それなら勉強のために…」
「暗くなってから行動していたんじゃ、どっちにしても岡山までなら真夜中になってしまうだろ。列車の方が早い」
「ふんっ、ヒロあんちゃんてそんなにスピード出せないのか」
「お前が背中に乗るって言うからだっ」
次第に大きくなる声を押さえて寛也は付け加える。
「第一何なんだ、その“ヒロあんちゃん”って言うのは。俺はお前の兄貴になった覚えはないぞ」
「でも潤也の兄ちゃんだろ?」
「お前にそう呼ばれる筋合いはない」
「いいじゃん、堅いこと言わなくったって」
「バカかっ」
ペロリと舌を出してみせる杳にこめかみの痛くなるのを覚えながら、寛也は杳から切符を取り上げると、そのまま杳の腕を引いてホームへと向かった。
* * *
観光をしたくない理由は他にあった。それは昨夜の自分のしたことを目にすることができなかったからだった。自分がここに戻って来たために起こった噴火であることは知れていた。自分の存在が火山活動を誘発させ、人に災いをもたらしているのだ。その跡など見たくもなかった。どうせ今更どうしようもないのだから。
特急列車に乗り込んで寛也はふーっと溜め息をついてみる。杳は黙ったまま窓の外を眺めている。まだ未練があるのだろうか。からかってやろうかと思った時、杳の顔色が変わった。何事かと杳の目を追ってみて寛也もギョッとなった。
そこには阿蘇の山を背景にして細長い竜身が舞っていた。
「あいつ…」
見覚えのあるその姿は雪乃のものだった。反射的に立ち上がろうとした寛也を杳が止めた。
「だめだ。あれは絶対何かの罠だ」
「分かってる。だけど放っておけないだろ」
寛也は杳の手を振り払って杳の顔を見遣る。不満一杯の表情。
「先に帰ってろよ。お前が駅に着くころまでには迎えに行ってやるから」
それだけ言って寛也は駆け出した。
* * *