第 3 章
炎竜
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 翌朝、チェックアウトタイムぎりぎりに宿を出て、二人は近くの喫茶店に転がり込んで遅いモーニングを注文した。寛也はそれにショートケーキとフルーツパフェを追加注文して全部平らげた後、和食が食べたかったとこぼして杳の顰蹙を買っていた。

「残りの3人の居所だが」

 コーヒーのお代わりを啜りながら、腹一杯で満足顔の寛也はそう切り出した。

「他の3人のことは知っているよな?」

 言われて杳はキョトンとしてみせる。知っていることと言えば竜神達の中でどれがそうなのかということと、そのうちの2人までが天竜王の力によってふっとばされてしまったままだということくらいだった。それだけ聞いて寛也は説明を始める。

「まず、白竜、別名風竜はお前の方がよく知っているかもしれないが、俺の弟の潤也。捜すのはこいつが一番の難物だと思う。他の奴らが集
まった時もあいつはどこにいたのか知られなかったんだから。潤也のことは諦めて最後にまわそう」

 そう言うと杳は、寝起きで不機嫌だった顔色をますます悪くする。

「分かっているのか、お前。潤也は俺の弟なんだぞ。俺だって一番に捜したいのはやまやまなんだ。だけどどこにいるのか掴めない奴を捜して時間を浪費するよりも、確実な所から押さえていかないといけないんだ。同じようにふっ飛ばされた華竜が復活したってことは、他の連中だって…。下手をすると仲間になる筈の奴も敵に先を越されて狙われるってこともある。それに潤也は多分、大丈夫だ。俺達に存在が分からないと同じように、あいつらにもそう容易く見つかる筈ないんだから」

 しぶしぶといった様子で杳はうなずいてみせる。

「それからあの時いた奴で朱竜・石竜。人間名は水穂露。こいつの居所の見当はついている」

 どこかと杳の目が尋ねてくる。

「あまりメジャーな所じゃないけど、同県人なら聞いたことあるだろ? ウラン鉱のある人形峠」

 寛也は語る。
 自分が天竜王に倒された後、この阿蘇へ来たのは単なる偶然ではないのだと。古より阿蘇は火の里として発展してきた。それもかつて自分が守ってきた地であるからなのだと。阿蘇の山をすみかとし、その里の村が自分の治める領土だったのだと。
 同じように他の竜神達にも治める地を持っていた者もあり、石竜は現在の中国山地東部を根城に、後の出雲地方を治めていたのである。

「だからあいつが一番に身を置くとしたあそこが考えられるわけ」

 カラになったカップを見放して、今度はグレープフルーツジュースを頼む辺り、どれ程の大きさの胃を持つのだろうかと杳は首を傾げながらその続きを聞く。

「それともう一人、青竜、別名水竜の静川ナントカってヤローは、多分そこへ行く道すがらで捜し出せるぞ」
「知っているヤツなわけ?」
「いいや、あいつもさ、同県人なんだよ。言葉で分かるわけ」
「へー」

 そんなもので居所まで分かるのかと感心半分、疑い半分の杳。

「ま、こいつの場合見付けるのは簡単なんだけどな」
「何か問題でも?」
「…どうもな、その、協調性がないというか、マイウェイというか、会えば分かるけど。俺、第一印象、あんまし好きじゃない、苦手なタイプだ。でもあいつは力あるし、仲間に加えとかないと絶対に俺らだけじゃ勝てねぇしなぁ」

 寛也はふーっと溜め息をつく。

「そんな堅物なの?」
「水竜だからな。俺とは折りが合わないのは仕方ないけどな」

 そう言ってポリポリと寛也は後ろ頭を掻いてみせる。

「じゃあ、まず順番ではその静川某の説得をしてから石竜を捜しに山の中に入るの?」
「そういうことだ」

 ぐっとジュースを飲み干して、寛也はようやく満足したらしくコップを置いた。


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