第 3 章
炎竜
-2-
1/9
血が沸き立つ。赤き炎のごとく。大地の奥から沸き出る命を感じて、彼は目を開いた。
どれほどの間眠っていたものか、一瞬の間であったようにも、永遠であったようにも思われる。
ゆっくりと体を動かしてみる。思いどおりに動くのを確かめて、ふと周りを見回す。
灼熱の炎。紅色が溢れていた。しかし不思議と熱さは感じなかった。
――ここはどこだ?
見慣れない場所、しかしそこかしこに懐かしさを感じる。
何故であろうか。
記憶の糸をたどり初めて、突然稲妻のように思い出した。
自分が結崎寛也という名の高校生であったこと、東京のビル街でかつての仲間であった竜王と対峙したこと、そしてそれに敗れたこと。
記憶が一気に蘇ってくると同時に、焦りが生じてくる。あの後どうなったのか、竜王の言うように人間界は征服されてしまったのか。果たして自分はどれ程の間、ここにこうして眠っていたのか。
寛也――炎竜――は身体を起こすと、手をのばし空気を蹴った。
駆け昇った空は一面の星に覆われていた。
* * *
火口から西は、暗がりの中でもはっきりと見分けられる赤黒い岩石がうごめいていた。そのむこうにはなだらかな高原に沿った道路がつながっていた。
中央の火口を取り囲むようにして外輪山の連なるその特異な風景に寛也は思い至るところがあった。一昨年修学旅行で来た阿蘇のカルデラ地帯である。とすると眼下で噴煙をまきあげながら熔岩流を吐き出しているのが五岳のうち唯一の活火山、ナントカ岳…名前を思い出そうとして、それが何になるのかと諦める。
寛也は闇に紛れるようにして、ゆっくりとその火口の北側にある神社に降り立った。うっそうと樹木の生い茂った中に建った神社であった。街へ降りれば人目につくと思ってのことだったが、その選択が災いしたと思ったのは、闇の中から見覚えのある顔を見いだした時のことだった。
「やっぱり生きていたようね」
肩まである真っ直ぐな髪をかきあげて、冷たく笑って見せたのは華竜――滝沢雪乃だった。寛也はフンっと鼻を鳴らす。
「あんたこそあの竜剣にやられてしまったのかと思っていたよ。よく無事だったな」
「おかげさまで」
「で、何の用? こんな夜中に会いに来たい程、あんたにとって俺って恋しい男だったっけ?」
「笑わせないで、坊や。年下には興味ないの。お生憎さま」
「こっちだって年増には興味ないぜ」
傍から見ていればすっかり口げんかである。しかし寛也も雪乃も表情一つ変えることなく、ただ相手の目と動きを見据えていた。少しでも動きあらば逃すまいと。
その緊張の糸を切ったのは、雪乃の方であった。
「まぁいいでしょう。それよりも炎竜、もう一度聞くんだけど」
「あのガキの手下になるなんて、一切御免だからな」
「言うと思ったわ」
雪乃は寛也のきっぱりした口調に、何が面白いのか笑ってみせる。気を悪くしたのは寛也の方。
「絶対に勝てない戦いだと分かっていても敵にまわるのね」