第 3 章
炎竜
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杳は溜め息ひとつついて、一通りの説明を終えた茅晶に質問することにした。
「それで、翔くんの持っている筈の剣を何であんたが持っているんだ?」
「ああ、あれね」
今はどこに隠しているのやら、飛行機には積み込めないだろうその刀剣を思い出しながら、茅晶は答える。
「あの竜剣には封印がされているのよ。だから個として存在するし、天竜王の元へは戻らない。つまり片腕もぎとって御札を貼っているようなものよ」
茅晶はくすくすと笑う。それで天竜王の力が半減するとは思えないが、百パーセント発揮できることはないと言う。
「それ、化け物よけの札のことだろ?」
「印を結んであるのよ。札のように物質じゃないわ」
「じゃあ何で化け物のあんたがもっていられるんだ?」
その言葉に茅晶はあからさまに険のある目を杳に向ける。それに気付かないのか杳は呑気な表情で茅晶の顔を覗き込んでいた。茅晶はそんな杳に溜め息ひとつついて答える。
「封印されているのはこの剣と竜王のつながり…と言うよりも、この剣が現在までの2300百年の間ずっと封印されたままの状態で存在していたって言う方が正しいかしら。だから手に取ることができる」
「封印は解けたってこと?」
「竜王の元に戻らないところをみるとまだなんでしょう」
「それって誰が封印したんだ?」
「…さあ、よほど徳の高い呪者か誰かじゃない?」
歯切れの悪くなった茅晶の言葉に杳は不審そうに首を傾げる。
「あみやを切った剣だったよな、それって。竜王の寵愛を受けた娘だろ? そもそも何で竜王はそのあみやを切ったんだ? まさか本当に寝取られて嫉妬に狂ったとかって…」
バシッ。静かな機内に響く音がした。一瞬何があったか気づかなっか杳が左頬に痛みを感じて自分の失言に気付いたのは、茅晶の表情をうかがった時だった。
「たとえ言葉でもあみやを汚すことは許さない。彼女は巫女よ」
茅晶の、はるか昔に死んだ少女への憧憬の程がうかがい知れた。
「天竜王は乱心していたのよ。一番大切にしていた者を自らの手で…」
おやと、再び杳は首を傾げる。昨日の翔の言葉はそうではなかった。自分の一番大切だった者を殺したのは人間であると。ではこの茅晶の語るあみやという少女と、翔の言う人物は別人なのであろうか。
問おうとして、飛行機は着陸体制に入った。
杳達の目指すは、大阿蘇中岳であった。