第 3 章
炎竜
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澪の大学での収穫には、あまり役立つだろうものはなかった。
竜に関する事柄は日本よりもむしろ中国においての方が数あり、当然古来の物品で現存するものも、ほとんどがそうであった。
それと同じく、日本の民話にその姿を認めることは数少なかった。
本来竜伝説は、日本の雨乞いの儀式に中国の竜が混ざり、雨神として存在するものであった。
追い求めれば追い求める程、それが架空の動物であるということを認識させられた。
大学からの帰り道、杳達三人は近所の喫茶店へ入った。
「どうしたものかな。防衛省へでも言っていくか? 竜の襲撃に備えて下さいって」
澪の物言いは、半分投げたようなものだった。
興味はあってもそれを信じられる程の想像力はない。実際に目で見ているわけではないのだから、それを信じるのが難しいことは杳にも分かっていた。
しかし、いらいらと焦る気持ちのもと、言葉尻がきつくなるのは仕方なかった。
「行きたきゃ行けば? どうせ誰も信じないだろうから」
ムッとして澪は聞き返す。
「じゃあどうしろって言うんだ?」
「…竜王に対抗できるのは四天王…っていうんだ。あいつの話に乗るしかないな」
独り言のようにつぶやく杳。
「あいつ?」
「そ。鬼族の女だよ。目には目を、化け物には化け物をってことだよ」
言って杳は硝子ごし、ビルの隙間に落ちていこうとする夕日に目を移した。
日没まであと数十分、決断するべきだと思った。
杳は手っ取り早く今朝の茅晶のことを語った。
「何ですって? あの剣、もう一つ持っているヤツがいたの?」
それまで黙ってパフェをつついていた里紗が、いきなり元気を取り戻したかのように声を上げた。
「分かった。このあたしがねじ伏せてあげるわ」
「あんたは北海道へ帰れよ」
「な、何言ってんの」
「修学旅行中なんだろ? 紗和どころかあんたまで行方不明になったんじゃ、あんたの両親が心配するだろう。紗和はオレが絶対に助け出してやる」
そこまで言われて、さしもの里紗も黙る。
しかし里紗とて引けないものがあった。
親の心配は確かにあるだろう。しかし、それよりも自分の目の前で弟がさらわれて行ったことの方が、里紗には許せなかった。
自分が何をしでかしても、庇って守ろうとしてくれた弟である。このままにして帰ることはどうしてもできなかった。
里紗はきつく唇をかみしめたまま、杳を睨んでいた。
「…仕方ないなぁ」
困ったような、それでいてうれしそうな表情。杳でもこんな顔をすることがあるのかと澪が思った途端、その表情は消えた。