第 3 章
炎竜
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早く寝ろと言われても、結局、明け方まで眠れなかった。
ぼんやりと窓の外が明るくなり始めた頃、澪に気付かれないように、杳は夜具から抜け出した。
街はまだ眠っていた。住宅区だからなのかもしれないが、薄暗い朝はまだ明けていなかった。
杳は大きく伸びをしてみる。
都会の空気は薄汚く感じていたが、朝だけは幾分ましなようだと思った。
どこかで巣をつくっているのか、耳をすませば小鳥のさえずりが聞こえてきた。
杳は、ふと朝もやの向こうに人影を見付けた。
その影に杳は身体を強ばらせる。
そこに立っていたのは、あの銀剣を持った少女だった。東京のあの地震の後、姿を消したのだが、やっぱり無事だったのだろう。
「早いのね、杳くん」
「何の用だよ?」
ゆっくり近づいてくる彼女はセーラー服姿。そして手にしている物はいつもと同じ銀剣だった。
「そんな怖い顔をして…。今日はいい話を持ってきてあげたのに」
「いい話?」
杳は鼻白む。
「竜神達を助けたくないの? 竜王をあのままにしておけばこの世は滅ぶのよ」
「何を…」
「私と取引をしない?」
少女は如何にも魂胆ありそうな顔で言う。
「取引だって?」
「私と貴方は今や目的は同じ筈よ。竜王を倒すこと。違うかしら」
「違うね。オレは翔を止めようとは思うけど倒そうなんて思わない。あんたなんかと取引するつもりなんてない。第一、勝算なんてあるの?」
「あるから言ってるのよ」
少女はそう言って笑って見せる。
きっと心を鬼に明け渡してしまわかければ可憐な少女であっただろうにと、ふと杳は不憫に思う。
「こちらには竜剣があるわ。ということは竜王の力は半減しているはず。加えて竜王四天王を集めれば十分に対応できるはずよ」
「してんのう?」
「そう。炎竜、水竜、風竜、石竜の四神のことを称して言うのよ。主に戦の神、戦闘能力に長けた連中のことよ。彼らの力を集約すれば勝てるわ」
「だけど…」
杳はその名の記憶をたどる。
風竜と呼ばれたのは潤也のことである。炎竜は寛也、石竜というのは朱竜、つまりあの時最後に現れた少年ではなかったか。
とすると――。