第 2 章
宝玉の戦士
-3-

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 いきなりハンドルが切られ、身体が大きく傾いた。その拍子にドアにぶつかったことで傷口に痛みが走る。

 車はブレーキの音を激しく立てて、静かとは言えない止まり方をした。

「何やってんのよっ、危ないじゃない」

 里紗が怒鳴る。

 紗和は痛みを堪えながら体勢を戻すと、窓の外へ目をやった。

 そこは白い闇に覆われていた。

「潤也…」

 つぶやいて杳は、ドアを開けて外へ飛び出した。

 振り返った方向には、先程までいたビル街がった。

 すぐに光は鎮まったものの、その場にあるものの姿を目にして、体中に緊張の走るのを感じた。

 そこにあったものは、薄闇にくっきりと浮かび上がった竜王の姿だけだった。

「みんなやられちゃったの?」

 里紗が、不安そうに窓から首だけをつきだして聞く。

 窓硝子ごしには杳の白い横顔が見えた。唇が震えているのが分かった。

「…逃げよう」

 杳は震える声でそう言うと、再び運転席についた。

 もう一度振り返ると、銀色の竜がこちらを向いて瞳を光らせていた。

 追って来る――そう直感して紗和は目を閉じた。

 が、発車して間もなく、車は再び急ブレーキをかけた。

 行く手に人影を認めたのだった。

「翔くん…」

 杳の声が小さく聞こえた。

 里紗が助手席で身を縮ませたのが分かった。

 杳がそれにちらりと目をやり早口で言う。

「あんた運転できる?」

 里紗がぷるぷると首を横に振る。

「エンジンかけて右端のペダルを踏むと走るから。まん中のがブレーキ。左端がクラッチ、ギアチェンジする時に使うんだ。分かった?」
「分かるわけないでしょ!」
「とにかく任せるから。オレが囮になる」
「ちょっと…」

 止める間もなく、杳は車外へと飛び出して行った。

 風がきつく吹いていた。

 雨雲が空一面を覆っている。

「潤也達をどうしたんだよ?」

 杳は毅然とした表情で聞いた。

「潤也…? ああ、風竜のことだね。彼を含めて全員まとめて片付けてあげたから」
「片付けた…?」

 杳はわずかに眉を吊り上げて見せ、翔を睨み据えた。

「仕方ないよ。この僕の邪魔をするんだもの。杳兄さんも邪魔しないでよ」
「邪魔って、例えばこんなふうに?」

 杳は言うが早いか、翔に近づき襟元をつかみあげると、2度3度とその頬を叩いた。

 しかし翔は平然とした様子で、薄笑いを浮かべる。

「杳兄さんさえ良ければ仲間にしてあげようと思っていたんだけど、あまりその気じゃないみたいだね。残念だよ」

 バシッと弾ける音がして両手に痺れが走ったかと思うと、杳の体は後方へと吹っ飛んだ。

 そして地面に背中をしたたかに打ち付ける。一瞬息が止まり、その後激しく咳きこむ。

 その間に翔は車に近づいて行った。

 運転席では里紗がエンジンをかけ発車させようとするものの、クラッチの位置がつかめないのか、エンストを連発させていた。

 ふと翔の姿が窓の外にあるのを認めると、我知らず悲鳴をあげた。

 そんな里紗には一瞥を加えただけで、翔は紗和のいる後部座席のドアを開けた。

 正確には鍵が掛けられていたため、引き千切ったようなものだった。

 そして銀剣を紗和の喉元につきつけた。

「何故力を使おうとしないの?」
「僕はそんなのじゃないって言っているだろ」
「それなら、本当に死んでもらいます」

 途端、飛び出して来た影があった。


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