第 2 章
宝玉の戦士
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「やれやれ、困った人達だなぁ。でもこの状態じゃ、僕の方に不利かもしれない」
その表情には余裕さえ見せていた。それなのに、翔はあっさりと剣を引いた。
「面白い計画だとは思ったのだけど、仕方ないか」
「ちょっと待てよ」
出て来たばかりでそれはないんじゃないかとばかりに、寛也が一歩踏み出す。
「お前、マジで世界征服なんて考えてんのか?」
「そんなもの要らないよ。僕が欲しいものはね…」
銀色の剣に目を落とし、冷たい光をその瞳に宿しながら。
「僕の一番大切だった人を奪った人間達の血だよ」
首を傾げて見せたのは、杳と紗和の二人。
つい先程似たような言葉を吐いた者がいなかったか。しかも同じ銀色の剣を持った。
何か因縁でもあるのだろうか。二つの剣と、それを持つ二人の者の思うこと。
「大切な人って…」
紗和が口を挟みかけた時、翔はわずかに笑みを見せながら、その身を銀色に光らせ始めた。
「華竜、光竜、闇竜、行くよ」
そう声がした途端、空気に何十倍もの圧力がかかり、翔の体が薄れていく。
キラリと銀色の鱗が見えたと思った。それを見て直感するものがあった。
紗和はゾクリと背を走るものを感じて、とっさに里紗の腕を取った。
「逃げなきゃ…」
言うと同時に、翔の身体は銀色の光を放ちながら天井を貫いた。
とどろきが辺りを包み、天井のかけらが頭上を襲った。部屋の調度品も風圧に舞う。
雪乃達3人も一瞬遅れて翔に続いた。
途端に紗和達を襲う大きな壁の固まり。
避けきれなくて悲鳴をあげたのは里紗。
もうだめかと、紗和は里紗をかばうように抱き締めて目を閉じた。
その瞬間見えたものがあった。
透き通った青銀色の天空、どこまでも遥かに続く黄金色の大地。実り豊かな作物を育てる人々。この夢がいつまでも続けばいいと願った自分がいた。
この記憶は――と思った途端、打ち伏していた自分の手を取る者がいた。
「ぼさっとしない、逃げるよ」
杳だった。口は悪いが、肩を貸してくれる様子だった。
ゆっくりと、しかし手早く立ち上がる。
今し方壁の飛んできていた方向に目をやると、そこには粉々に砕け散った壁の残骸があった。
そしてよくよく見ると、ホテルの最上階に夕日が降り注いでいる。
紗和は杳と里紗の手を借り、取り敢えず階段へ向かった。
エレベーターは使いものにならないだろうことは知れていたが、しかし、かと言って36階から降りるというのは、今の状態の紗和には自信がなかった。
立ち止まった紗和に、里紗が冷たい目をして見せる。
「あんた一人置いて帰ったら、あたしがみんなに何て言われると思ってんの」
他人の言葉なんて気にしないくせにと思いながらも、紗和は黙って従うことにした。
「降りきるまで、このホテルもってくれるかなぁ」
不吉なことを平気で口走るのは杳。
窓の向こう、隣のビルがまるで砂の城の様にガサガサと崩れて行くのが目に入った。
地鳴りがするのは、このホテルが崩れているからだと思っていた。しかし実のところ、周辺のビルが破壊されている音らしかった。
「多分ここも、そうもたないよ。潤也が守ってくれているみたいだけど。とにかく急ごう」
もう何が何やら分からなくなってしまいそうな頭を振りながら、ふらつく足取りで紗和は階段を降りて行った。
* * *