第 2 章
宝玉の戦士
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「何で飛び出してくるのよっ。あれくらいの剣、あたしだってよけられたわよ」

 嘘ばっかり。

 と、里紗の向こうにいる翔の姿が目に入った。

 多少の戸惑いの色を浮かべているのは、あっさりと紗和が自分の剣にかかったためだろうか。

「ばっかやろーっ」

 怒声とともに、小気味いい平手の音が部屋に響いたのは、その直後のことだった。

 杳が翔の頬を張ったのだった。はたかれて、翔は杳を見上げる。

「いいかげんにしろよ。剣振り回して、人が自分の思いどおりになるとでも思っているのか。何でも適うと思っているのか。甘えるなっ」

「竜王なら、それくらいの道理をわきまえろってな」

 突然、それまでと別の方向から、声が聞こえた。

 一同が振り返るそこに立っていたのは、潤也に似た少年――兄の寛也だった。

「ヒロッ!」

 潤也の声と同時に、部屋の中の一角に、緊張感が走った。

 寛也の前に、スッと雪乃達3人が場を取った。

「邪魔はしないようにと、言いおいたはずよ」

 雪乃が代表して言った。

 しかし寛也はそれを無視して、その脇を擦り抜けようとする。

「ちょっと炎竜」
「でも普通助けるよな、こういうシチュエーションだと」

 寛也は、自分の腕を取ろうとした雪乃と辰己の2人をちらりと睨むと、軽く腕を振り払ってみせた。

 2人は弾かれたように、後方へとその身を飛ばされた。

「へーっ、俺って強いんだ」

 寛也の方が驚いた様に、弾け飛んだ2人を交互に見ながらつぶやく。

「よくも…」

 起き上がろうとしながら、怒りをあらわにしたのは雪乃。その手は――寛也をつかんだ手は、火傷のように赤く腫れていた。

 怒りのため、雪乃の紫色のオーラが一気に膨れ上がった。

 そしてその身がやんわりと薄れていこうとした時、制止の声を上げたのは、またしても翔だった。

「華竜の君では、炎竜にはかないませんよ」

 雪乃は、翔を睨む。

「何たって一番の荒武者だったんだから、彼は。炎を司る赤竜の戦(せん)、風を司る白竜の凪(なぎ)、それから…」

 翔は、視線をドアの方へ向ける。

「隠れてないで出てきたらどう? 朱竜、鎖鉄(さてつ)」

 翔の声と同時にドアから顔を覗かせたのは、寛也とは先程別れて帰った筈の露だった。ペロリと舌を出しておどけてみせる。

「さーっすが、気付いてたか」
「お前っ、帰ったんじゃなかったのか?」

 一方、後をつけられていたことなど一向に気付かなかった寛也が、驚きの顔を見せていた。

「なーんか面白そうなんで来てみたんだけど、どうせならもっと格好よく登場させてくれればいいのに」


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