第 2 章
宝玉の戦士
-3-

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 長い黒髪を軽くかきあげて<雪乃は一歩先へ出る。

 が、それを制したのは翔だった。

「あなたには無理ですよ。どうやら随分と口が立つ人らしいから」

 言われて雪乃は翔に言い返そうとするが、その横顔を見るや、そのまますんなりと引き下がった。

 誰が大将なのかわきまえてのことだろう。それ程に翔に力があるものなのか、紗和は興味を覚えたが、それも危険な考えと頭の中で警笛が鳴るのを聞いた。

 ここはこの場を離れることだけを考えた方が得策だと。

「夕食は、多分6時頃からだろうし、そろそろ帰らないと、先生方も本気で心配されるだろうから」
「じゃあ君の姉さんだけは返してあげます」
「は?」

 紗和の後ろで「ラッキー」と小さくつぶやく里紗など、もう縁を切りたかった。

「僕の目から見るに、地竜王は君だから」

 翔はそう言って、紗和を指さした。一瞬の沈黙の後――。

「ばっかじゃないの。この紗和が、そんな面白いものなわけないでしょうが」

 笑いながら答えたのは、里紗だった。

「あたし、この子とは16年間一緒に暮らしてきたけど、今の今までそんなご大層なものになったためしはないわよ」

 何て言い方だと思いながらも、この里紗の言葉に便乗することにした。

「第一、この里紗の弟の僕がだよ」

 横で笑い出したのは杳だった。潤也がそれを何とかたしなめている。

「仕方がないなぁ」

 翔はくすりと笑って、一度は収めた銀剣を再び抜く。

 一瞬、その場の空気が震えた。

 翔の表情は柔らかだったが、その瞳の中には厳しい光が宿っていた。

「冗談で紛らわされるほど単純でもないんです。君、瞳に余裕が見えてますよ」

 言われて、紗和ははっとする。

 そんなもの考えてもいなかったが、翔の持つ剣さえも、何故か恐れるほどのものではないと思っていたのだった。指摘されて改めて気付く。

「どうあっても僕を殺そうっていうの?」
「そうなりますね」
「人違いだと思うんだけどなぁ」
「僕の目に狂いはないと思いますよ」

 笑いながら、翔は手にした銀剣を振り上げた。

 その動作が、紗和には妙にゆっくり、スローモーションの様に見えた。

 ――何て手付きなんだろう。

 それはまだ、使いこなすことのできない、稚拙な動きだった。避けることは簡単。

 振り降ろされる剣から、紗和はひらりと身をかわした。

「反射神経はいいんですね。でも今度のは」

 翔は剣の先を、紗和の後ろにいた里紗に向けた。

 はっと思った瞬間、紗和は自らの身を盾にしていた。

「紗和!」

 赤い血しぶきが飛び散った。

 紗和は左肩に激痛を覚え、その場にうずくまる。傷口から力が流れ出すかのような気がした。

 閉じた目を開けると、意外にも青ざめた里紗の顔があった。


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