第 2 章
宝玉の戦士
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「今更の台詞だと思って。杳兄さん、僕の姿見たんだろ?」
「だったら何だって?」
「この僕が杳兄さんのうちに帰れると本気で思っているわけ?」
「オレは気にしないよ。現にこいつだって変態するんだし」

 杳の指さしたのは潤也。

「変態ってね…」
「別に前科者だって構わないよ。翔くんは翔くんなわけだし」

 一瞬翔の気が緩む。が、すぐに表情は険しく変わって行く。

「残念だけど僕には、しなくちゃならないことがあるんだ。僕はもう目覚めてしまったから…人の生活は送れないよ、杳兄さん」

「あのぉ、お取り込み中、悪いんだけどぉ」

 痺れを切らせたように割り込んできたのは、里紗だった。

 触らぬ神に祟りなしと、見物人を決め込んでいた紗和が気付いた時には、既に遅かった。

「もう少し、あたしにも分かるように説明してくれない? さっきから聞いていれば何? あんた達って人間じゃない、化け物だったりするの?」
「ちょっと、里紗」

 慌てて紗和が里紗を後方へと引き戻すが、みんなの視線は自分達に向いてしまった。

「だってそうでしょ? あんた達があたしをここへ連れて来たんだから、ちゃーんと説明してくれなきゃ」

 どちらかというと里紗の場合、自分から好んで付いてきたのだが。

「そうだね、忘れる所だったよ」

 翔がにっこり笑って、里紗を見返す。

「彼が風竜である以上、残りの三人のうちの一人だよね」

 翔はそう言うと剣を両の手に握り締め、ゆっくりと振り上げる。

「他の犠牲者が出ないうちに、自ら名乗り出たほうが賢明だと思うよ、地竜王」

 目立ってしまったのがいけなかったのだろう。翔の剣は里紗を狙った。

 本気――だと言うことが、翔の瞳から伺えた。

 振り上げた剣、これではあの少女のしていることと同じではないか。

「里紗っ」

 とっさのこと、里紗をかばって前へ出たのは紗和。しかしその紗和の上に剣は降ってこなかった。

 恐る恐る目を開けたそこには、自分と翔の間に、紗和をかばうかのようにして立つ杳の姿があった。

 翔の剣は杳の頭上、紙一枚の所で止まっていた。

「杳兄さん、先に死にたい?」

 その態勢のまま翔が聞く。が、杳は憮然とした声で返す。

「んなわけないだろ」
「だったら邪魔しないでくれる?」
「いやだね」

 翔は無表情のまま、すっと剣を引くと、今度は改めて杳の方に向かって構える。

「仕方がないよね、杳兄さん」
「ちょっとちょっと待ってよ」

 じっと我慢していたが、紗和はこれ以上黙っている気にはなれなかった。

「そんな剣振り回して、人を斬って何が楽しいって言うんだよ。君もだよ」

 紗和は杳の襟首をつかむと、ひょいっと潤也の方へ押しやる。

「なっ、何だよっ」

 反論しようとする杳を無視して、紗和は翔に向き直る。

「何のこと言ってんだかさっぱりだけど、武器ふりまわしてるんじゃ、話にも何にもなりはしないだろう。さっさとしまいなよ」

 言われて、翔はじっと紗和の顔を見る。

「それとも君、その剣で脅していなきゃ、話もできない臆病者なのかい?」
「ふんっ、人を言いくるめるの、うまいんですね」

 翔は鼻先で笑い、それでも剣を鞘に収めた。

「いいでしょう。対等の立場に立たなきゃ話はできませんね」

 ホッと安堵の息を漏らしたのは潤也らしい。苦労の多い人なのだろうと、紗和は同情する。

「じゃあまず、教えてもらえないかな。君達が一体何者で、何のために僕達をここへ呼んだのか」


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