第 2 章
宝玉の戦士
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喫茶店を出て、先程と違うものを感じて、紗和は立ち止まった。
同じく違和感に気付いたのか潤也も、杳の腕を取り、辺りの気配に目を走らせた。
「どうかした?」
二人の様子に、杳も里紗も小首を傾げてみせる。
違和感の原因はすぐにつかめた。人が、いないのだった。
「またか」
潤也がつぶやく。
「いいかげんに、僕達を付け回すの、やめてくれないか?」
しかし彼の声に応えてビルの隙間から姿を現したのは、先程の少女ではなかった。
「残念だけど、お会いするのはこれが初めてよ」
笑ってそう言う少女の背には、薄紫色のオーラが見えたような気がした。
「誰だよ、あんた」
その彼女の持つものが好意ではないと気付いて、杳が一歩踏み出す。
が、その杳を圧し止めたのは潤也だった。
「待って、杳。彼女、ヒトじゃない」
「えっ?」
ピクリと彼女の眉が吊り上がり、身にまとう光がわずかに増す。
「あらら、誰かと思ったら炎竜くんの弟くんね」
「炎竜?」
潤也は口の中で繰り返す。どこかで聞いた名だと思った。
「それで貴方達のどなたかしら、地竜王は」
「は?」
四人まとめて頭上に疑問符を飛ばし、互いに顔を見合わせた。
「何のことだか知らないけれど、人違いしてるんじゃないですか?」
潤也の口調は柔らかかったが、警戒の色は隠せない。彼女の正体が、何となく知れたような気がしたのだった。
「つい2時間程前、地震が起こったわ。貴方達の誰かが引き起こしたものよ。違う?」
「そんなことできるわけないだろ。あんた、ちょっとキレてんじゃない?」
杳だった。潤也はこめかみを押さえながら、杳の腕を引いた。
「とにかくかかわらない方がいい。杳、逃げよう」
が、方向転換した先に別の、その少女と同じオーラを持つ少年が立っていた。
「雪乃、この四人の中の誰かには違いないのか?」
「天竜王がそうだって言うんだから、そうなんでしょ? とりあえず、ここでは何だからご同行願いましょうか」
言ってその少女――雪乃は、潤也達に手招きする。
「あたし達には関係無いみたいだから、紗和、帰ろうか」
里紗はそう言って、くるりときびすを返そうとする。と、どこから現れたのか、もう一人その里紗の腕をつかむものがいた。
「手間は取らせない。しばらく付き合ってもらおうか」
ただ、見目が良かっただけなのである。止めようとする紗和を振り切り、里紗は二つ返事でOKしてしまった。
そして加えて言うことに。
「紗和、あんたもついて来なさいね」
紗和には、口出しの権利はなかった。もう、勘弁して欲しかった。
「行く前に、答えてもらいたいことがある」
潤也は雪乃に向かう。
「さっき僕を見て、炎竜の弟って言ったよね。その炎竜って、もしかして結崎寛也のことじゃ…」
「あら、よく分かったわね」
さらりと言ってのける雪乃に、潤也は駆け寄る。
「だったらヒロが、兄がどこにいるのか知っているんだね。教えてくれないか?」
「さあ、知らないわ。自分のうちへ帰るとは言ってたけど、とても帰れないわよね」
雪乃の言わんとする意味が、潤也にはよく飲み込めなかった。ぼんやり考えようとすると、さっきの少年に背中を押された。
「おまえらに会わせたい人がいる」
言われて半分引きずられるようにして、4人は雪乃達の後に続いた。
* * *