第 2 章
宝玉の戦士
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雪乃はそう言った翔を目を丸くしながら見る。
この小柄な少年には成程間違いなく竜王としての力が備わっているのだろう。自分達の統率者としての力が。
「さて、それじゃあちょっと行ってみるとするかな」
翔はポンと立ち上がると剣を鞘におさめ、小さく口の中で何かを唱える。
と、銀の剣がその影をすっと空気に消してしまった。
その代わりに現れる銀の珠玉。
「ついて来る? 今生での地竜王の御顔が拝めるよ」
そう言って笑った翔の顔は、子どものそれだった。
* * *
「二度と会う事もないだろうけど」
寛也はそう言って四人の“仲間”を見回した。
「元気でな」
一応、言葉をかけておく。
と、その時、空気にものすごい圧力を感じた。
全員が、思わずその方向を振り仰いだ。そこに、四体の竜の姿があった。
その中でひときわ大きくて目を引く竜――銀色の鱗を持つ、天竜王。
「カッコ良いよなぁ…」
ボソリと呟いたの露。寛也もその姿に、はっと息を飲むものがあった。
「障らぬ神に崇りなし…だな」
聖輝が言った。
そうなのだ、一旦動き出した竜王を阻止しようなど、自殺行為も同然。
ここは彼が何をしようが素知らぬフリを決め込むのが、利口というものだった。
しかし。
「東か…」
竜王の向かおうとしている方向には、首都があった。
「様子だけ見に行くか」
寛也には放っておけないものがあった。
正義感なんて恥ずかしい名のものは持ち合わせているつもりはない。
しかし、その相手が自分のかつての“仲間”であり“大将”であったからには、黙って見ていられない。
手出ししないにしても、見届ける義務はあるような気がする。
が、案の定、聖輝が止めにはいる。
「天竜王は乱心したままだぞ。昔のヤツじゃない。近寄らない方が身のためだ。それよりも、自分の周囲の人間を守ることの方が先だろう」
言った聖輝を、寛也は見やる。
「水竜の瀬緒…あんた、そんなヤツだった?」
言われた当人は、目を丸くする。が、すぐに険しい表情を向ける。
「俺は静川聖輝だ。それ以外の何者でもない」
「だったら止めるなよ」
寛也は一歩、二歩後ずさり、そして手にした赤玉を握り締める。
赤い炎の竜、その心も燃え盛る炎のようだと言われた。
戦いの場に逸速く馳せ参じ、先頭切って戦う。
本来ならばあの天竜王の右腕の炎竜。その姿はあまりにも炎に酷似しており、その名をいただいた。
寛也は次第にその身を精神へと変えながら、銀色の竜身の跡を目で追い続けた。
行く先は東の地。
そこに誰がいるのか、彼はまだ知る由もなかった。