第 2 章
宝玉の戦士
-2-

5/6


 声をかけてきたのは先程の静川聖輝だった。

「バカなこと?」

 ムッとしながら寛也は聞き返す。

「言っておかなくても覚えていると思うが、俺達が束になっても、竜王には敵わないんだぞ」

 幾千年の時代が過ぎ去ったものか、もう人界の歴史の上にも上って来ない程の昔、自分達は竜一族として存在した。

 天を治め、地を治め、のどかに平和に暮らしていた。

 そんな折、突然おこった竜王の乱心。

 その後、戦って戦って――竜一族は滅びた。

 寛也の竜としての記憶と、今日の「会議」で知りえたのは、たったそれだけのことである。

 細かいことは、自分には分からない。

 天竜王、翔の言う“地竜王の封印”にしても、何のことだかさっぱりだった。

 とにかく天竜王は自分達一族の長であり、長兄であり、絶対的実力者だった。

 彼の持つ銀色の剣は、天も地も切り裂くと言われ、誰もが近づくことを恐れた。

「…別にあんな連中、相手にするつもりなんてない」

 言って寛也はプイッとそっぽを向く。

 もうしばらく歩くと、広い草原に出た。

 そこから竜は天へ舞い上がる。


   * * *


「まず地竜王を捜しだす」

 寛也達を見送った後、翔が低い声でそう言った。

 雪乃はまた不満顔を浮かべたまま、翔の方へ顔を向ける。

 洞窟に残ったのは翔、雪乃の他に二人きり。

 最初から一言も口を開こうとしない、名前すら名乗ろうとしない少年。手にした薄黄色の珠玉が示すところによると彼は光竜。つまり、光を司るはずの竜。

 そしてもう一人は黒玉を持つ闇竜・和泉辰己(いずみたつき)と名乗った大学生。現世では先程出て行った聖輝と並んで最年長だった。雪乃から見ればこの人間も気障ったらしくて気に入らなかった。

 ろくなヤツが残らなかったと思うが、せめて竜王が残ったことを喜ぶべきだろうか。

「地竜王は何故自らを封印したの?」

 雪乃は尋ねる。

「…あいつは臆病だから」

 ふと翔の顔に何かの色が浮かぶが、それもすぐに消える。

「じゃあ地竜王はそっとしておいても大丈夫なんじゃないの?」
「いや。覚醒すれは、あいつは必ず敵対する。見ただろう、連中、炎竜や石竜なんて昔のままじゃないか。あの向こうっ気の強い所なんて」

 翔は含み笑いをする。

 そういう所も昔のままだと、雪乃は翔を見遣る。

「でもさっき、自分には居場所はつかめないって言っていたじゃない」

 雪乃の問いに、翔はまた笑ってみせる。

「気付かなかったようだね、みんな。つい今し方大地が揺れた。ほんのわずかだけどね。あれは間違いなくヤツの力だった。方向も見極めたよ」


次ページ
前ページ
目次