第 2 章
宝玉の戦士
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声をかけてきたのは先程の静川聖輝だった。
「バカなこと?」
ムッとしながら寛也は聞き返す。
「言っておかなくても覚えていると思うが、俺達が束になっても、竜王には敵わないんだぞ」
幾千年の時代が過ぎ去ったものか、もう人界の歴史の上にも上って来ない程の昔、自分達は竜一族として存在した。
天を治め、地を治め、のどかに平和に暮らしていた。
そんな折、突然おこった竜王の乱心。
その後、戦って戦って――竜一族は滅びた。
寛也の竜としての記憶と、今日の「会議」で知りえたのは、たったそれだけのことである。
細かいことは、自分には分からない。
天竜王、翔の言う“地竜王の封印”にしても、何のことだかさっぱりだった。
とにかく天竜王は自分達一族の長であり、長兄であり、絶対的実力者だった。
彼の持つ銀色の剣は、天も地も切り裂くと言われ、誰もが近づくことを恐れた。
「…別にあんな連中、相手にするつもりなんてない」
言って寛也はプイッとそっぽを向く。
もうしばらく歩くと、広い草原に出た。
そこから竜は天へ舞い上がる。
* * *
「まず地竜王を捜しだす」
寛也達を見送った後、翔が低い声でそう言った。
雪乃はまた不満顔を浮かべたまま、翔の方へ顔を向ける。
洞窟に残ったのは翔、雪乃の他に二人きり。
最初から一言も口を開こうとしない、名前すら名乗ろうとしない少年。手にした薄黄色の珠玉が示すところによると彼は光竜。つまり、光を司るはずの竜。
そしてもう一人は黒玉を持つ闇竜・和泉辰己(いずみたつき)と名乗った大学生。現世では先程出て行った聖輝と並んで最年長だった。雪乃から見ればこの人間も気障ったらしくて気に入らなかった。
ろくなヤツが残らなかったと思うが、せめて竜王が残ったことを喜ぶべきだろうか。
「地竜王は何故自らを封印したの?」
雪乃は尋ねる。
「…あいつは臆病だから」
ふと翔の顔に何かの色が浮かぶが、それもすぐに消える。
「じゃあ地竜王はそっとしておいても大丈夫なんじゃないの?」
「いや。覚醒すれは、あいつは必ず敵対する。見ただろう、連中、炎竜や石竜なんて昔のままじゃないか。あの向こうっ気の強い所なんて」
翔は含み笑いをする。
そういう所も昔のままだと、雪乃は翔を見遣る。
「でもさっき、自分には居場所はつかめないって言っていたじゃない」
雪乃の問いに、翔はまた笑ってみせる。
「気付かなかったようだね、みんな。つい今し方大地が揺れた。ほんのわずかだけどね。あれは間違いなくヤツの力だった。方向も見極めたよ」