第 2 章
宝玉の戦士
-2-
3/6
「俺、いっちぬーけ」
言うなり寛也は立ち上がり、とっとと洞窟を出ようとした。
その前に立ちはだかるのは雪乃。
「どけよ、ねーちゃん。俺、帰るんだから」
「つれないことするんじゃないわよ。これから面白くなろうって時に」
「俺は放火魔になんてなる気ないぜ。言っとくけど、俺は至極健全な一般高校生なの。あんたらみたいに人生、すててねえよ」
「あら、あなた、あんな姿になってもまだ自分が人間だと思っているの?」
「なっ!」
くすくすと笑ってみせる雪乃。
「それにあの姿、貴方の弟君にも見られてるでしょ。戻れるの?」
寛也は一瞬戸惑う。
あの夜、部屋のベランダで次第に姿を変えていった自分。それを見ていた弟の潤也。
あの姿を見て潤也は何を思っただろうか。帰ったとしても自分を恐れはしないだろうか。
しばし口ごもる寛也の様子に、雪乃は我が意を得たりとほくそ笑む。
「どうしてもと言うなら帰るといいわ。人間がどんな生き物か思い知るでしょうから。彼らは異種族の存在を認めようとはしないはず。そうね、たとえ貴方の弟君が認めたとしても、そのために彼を苦しめることになるかもしれないわね」
ふと、寛也は何か感じるところがあって雪乃を見遣る。
しかし彼女の表情に、寛也の感じた所に対する答えは、見つからなかった。
「どう、帰るの?」
「どっちにしても、あんたの言う人界征服っていうのには、ついていけねぇな」
と、背後でカチャリという音。
その耳慣れない音に振り返ると、翔が剣を鞘から抜き取っていた。
その剣の輝きに一瞬背にゾクリとしたものが走る。
「面白いじゃない。その人界征服っていうの」
翔は口元にわずかに笑みを浮かべている。
寛也は、ピクリと顔の引きつるのを感じる。
「で、僕はその王になればいいってこと?」
「な、何言ってんだよ、お前、バッカじゃねーの? 三流特撮じゃあるまいし、人を虐げて何が面白い?」
「他に何もないじゃないか」
「え…?」
寛也は翔の表情を覗き込もうとする。が、翔はそれを疎んで、顔を背ける。
「帰りたければ帰ればいいよ。炎竜の力などなくとも、支障などない」
さらりと言ってのける自分より頭一つ低い年下の少年に、寛也は頭に血が昇るのを覚えた。
が、その手にしている銀色の光りものにおとなしく引くことを選ぶ。
「話はついた。じゃあねぇちゃん、そこをどいてくれよ」
雪乃は不満の色を浮かべていたが、しぶしぶその身を脇へ避ける。
それほどに翔の剣を恐れているのだろう。
寛也とて同じであった。
初めて会ったとはいえ、記憶の奥底にある何かがその力の絶対を教えていた。
竜王の剣に勝るものはないと。