第 2 章
宝玉の戦士
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「俺、いっちぬーけ」

 言うなり寛也は立ち上がり、とっとと洞窟を出ようとした。

 その前に立ちはだかるのは雪乃。

「どけよ、ねーちゃん。俺、帰るんだから」
「つれないことするんじゃないわよ。これから面白くなろうって時に」
「俺は放火魔になんてなる気ないぜ。言っとくけど、俺は至極健全な一般高校生なの。あんたらみたいに人生、すててねえよ」
「あら、あなた、あんな姿になってもまだ自分が人間だと思っているの?」
「なっ!」

 くすくすと笑ってみせる雪乃。

「それにあの姿、貴方の弟君にも見られてるでしょ。戻れるの?」

 寛也は一瞬戸惑う。

 あの夜、部屋のベランダで次第に姿を変えていった自分。それを見ていた弟の潤也。

 あの姿を見て潤也は何を思っただろうか。帰ったとしても自分を恐れはしないだろうか。

 しばし口ごもる寛也の様子に、雪乃は我が意を得たりとほくそ笑む。

「どうしてもと言うなら帰るといいわ。人間がどんな生き物か思い知るでしょうから。彼らは異種族の存在を認めようとはしないはず。そうね、たとえ貴方の弟君が認めたとしても、そのために彼を苦しめることになるかもしれないわね」

 ふと、寛也は何か感じるところがあって雪乃を見遣る。

 しかし彼女の表情に、寛也の感じた所に対する答えは、見つからなかった。

「どう、帰るの?」
「どっちにしても、あんたの言う人界征服っていうのには、ついていけねぇな」

 と、背後でカチャリという音。

 その耳慣れない音に振り返ると、翔が剣を鞘から抜き取っていた。

 その剣の輝きに一瞬背にゾクリとしたものが走る。

「面白いじゃない。その人界征服っていうの」

 翔は口元にわずかに笑みを浮かべている。

 寛也は、ピクリと顔の引きつるのを感じる。

「で、僕はその王になればいいってこと?」
「な、何言ってんだよ、お前、バッカじゃねーの? 三流特撮じゃあるまいし、人を虐げて何が面白い?」
「他に何もないじゃないか」
「え…?」

 寛也は翔の表情を覗き込もうとする。が、翔はそれを疎んで、顔を背ける。

「帰りたければ帰ればいいよ。炎竜の力などなくとも、支障などない」

 さらりと言ってのける自分より頭一つ低い年下の少年に、寛也は頭に血が昇るのを覚えた。

 が、その手にしている銀色の光りものにおとなしく引くことを選ぶ。

「話はついた。じゃあねぇちゃん、そこをどいてくれよ」

 雪乃は不満の色を浮かべていたが、しぶしぶその身を脇へ避ける。

 それほどに翔の剣を恐れているのだろう。

 寛也とて同じであった。

 初めて会ったとはいえ、記憶の奥底にある何かがその力の絶対を教えていた。

 竜王の剣に勝るものはないと。


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