第 2 章
宝玉の戦士
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「“地上に五つの勾玉ありて、天に九つの竜玉を示す。剣持つものこれを導き、鏡持つものこれを写さん”」

 壁画にはそう書かれてあった。

 寛也はそれを読み上げる少女をちらりと見遣り、その手に持つ珠玉に目を止める。薄紫色にぼんやりと光を放っていた。

「今から二千年程前に書かれたものと推定されるわ。これは予言よ。竜玉を持つ竜神の目覚め、そして竜王の復活」

 彼女自身、紫色の竜に転身するのを寛也は見ていた。名を華竜と言う。人間名では滝沢雪乃(たきざわゆきの)と名乗り、寛也より一つ年上の高校3年生だとか。

 今のところ、訳知り顔で、この場を取り仕切っているのは、彼女のようだった。

「貴方達自身知っているでしょう、自分がそのうちの一人だっていうことを」

 そう言って彼女は、自分の周囲に立つ少年達を見回す。

 集まっているのは、寛也の他に雪乃を含めて8人。

 寛也と同じ体質らしく、各々手にそれぞれの守護する珠玉を携えていた。

 ただ一人だけ、それとは違ったものを手にしている。

 銀色に光る剣だった。とすると彼が竜王ということになる。

 壁画に描かれている竜神を統べるという竜王。

「私達竜神の復活で、人間界はその支配下に入ることになるわ」

 ちっと、寛也は舌打ちする。

 こんな絵空事、今時の小学生だって信じやしない。

 と、その表情を素早く見取ったのか、雪乃が寛也を指さす。

「炎竜、何か言いたいことがあって?」

 性格悪いヤツ、と思いながら寛也はそっぽを向く。

「べつに」
「そう?」
「ひとつ聞いていいか?」

 学校ではないのに手を挙げてそう言ったのは、水穂露(みずほあきら)と名乗った少年。朱色に光を放つ宝玉を持つ彼は、寛也より一つ年少であると言っていた。

「何かしら、石竜」

 雪乃は反対に教壇に立つ教師よろしく受け止める。

 この点、日本の学校教育に慣れ親しんだ証拠であると、弟の潤也がいたなら批評するところだなどと寛也は考える。

「ここに集まってるの、9人だろ? 他の2人はどうなってんだ? 復活とかしないのか?」
「地竜王は自ら封印しているから、それを解かない限り目覚めることはない。風竜は本来その姿を他者に知らしめることのない性質を持っているからね」

 そう言ったのはみんなより一歩下がった所で、それまで黙ったきりだった銀色の剣の持ち主、自己紹介で名前だけ名乗った葵翔。しかしその手に持つ剣が彼が竜王であると語る。

「じゃあ、オレ、全員揃ったらその壁画のことも信じてやっても、いいや」

 露はそう言うと、その悪戯っこそうな瞳を雪乃に向けた。

「全員揃う必要はないわ。これだけで十分。人界を治めるにはね」
「ねーちゃん、頭おかしいんじゃない?」


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