第 2 章
宝玉の戦士
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 しかし逃げ足の速い杳は、それをひょいと避ける。そして、紗和とは反対側の、その少女の向こう側へ立った。

「そんなに死にたいわけね」

 紗和には、少女の肩が震えるのが見て取れた。

「いいわ、お望みどおり死なせてあげる」
「まーだ分かってない? あんた、彼氏いないだろう」
「だから何だっていうの」
「そんな恐い顔してるからだよ。恨み持つのもいいけど、いつまでも内にそんなものを持ってると、見た目不細工だぜ。捨ててしまいなよ」
「あんたなんかに何が分かるって言うの!」

 また一振り、銀の剣が闇に舞う。

「私が人に忌み嫌われ、どれほどの思いをしてきたかなんて知りもしないで…!」

 その少女の剣は闇雲に振り回される。

「分かってくれたのはあの人だけだったわ。たった一人…あみやだけだった…それをあいつ、天竜王はこの剣で…許せないっ。何があろうとも、何度生まれ変わろうとも、あいつだけは許せないっ!」

 しかし少女の剣は、杳を捕らえることはできなかった。

 それどころか、杳は彼女の隙を捕らえ、その懐に飛び込んで剣をつかみ取る。

「何するのよっ」
「こんなもの持っているから、あんた、救われないんだ」
「私が救われないんだとしたら、天竜王の所為だわ」
「甘ったれるんじゃないよ!」

 怒鳴ると同時に、杳は剣を持つ手を引く。

 が、少女もそうはさせじと剣つかんだ手に力を込める。

「こんなもの持ってるから…」
「放せっ!」

 その時――剣が鳴った。

 リーンという悲しい音色を暗闇に響かせて。

 銀色の光を放って。

「ちがうーっ!」

 少女は叫んで、力の限り剣を振り上げた。

 弾みで、力負けした杳は尻餅をつく。

「私を惑わせるお前――一体何者?」

 少女の目が不気味に光る。鬼の色を宿す。

「何者って…オレ?」

 キョトンとして見せる杳。

「腐ってもこれは竜王の剣。人間ごときに反応する筈がない」

 彼女はそう言って、剣の切っ先を、杳の目の前に突き付ける。

「それとも竜神一族のものか…。どちらにしてもこれ以上、生かしておくわけにはいかない」

 言って、両手でしっかりと剣をつかんで、振り上げる。

「危ないっ」

 誰かの叫ぶ声。その瞬間――。

 地が大きく揺れた。

「な…何事?」

 驚く少女の足元から地面がいきなり盛り上がる。

 と思った途端、地面は上昇し、山となり、彼女を乗せたまま天井を突き破った。

 少女の悲鳴が、轟音を縫って聞こえてきた。

 せりあがった地面の傾斜上にいた杳は、バランスを崩したまま、下方へと転がった。

 その彼の手をつかんだ者がいた。

「つかまって」

 紗和だった。自分はちゃっかりと安全な足場を確保していた。

 少女が姿を消した場所――天井からは光がこぼれていた。

 どうやら地面が出口を開いてくれたようだった。

 そして地震はそれとともにおさまっていた。


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