第 2 章
宝玉の戦士
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「ということはやっぱり狙いは杳の方か…」

 潤也はとっさのこととは言え、杳を連れていた方が良かったのだと改めて後悔する。

 あの少女が自分達を狙っていたことは確かなのだ。が、こうして自分が今、警察とは言え、お茶を啜っていられるのだから、彼女は杳の方に目を向けている筈だ。

「ね、あんた、えーっと…」

 同じように彼の横で緑茶をすする里紗が、ふと顔をこちらに向けて来た。

「結崎潤也だよ。確か名乗った筈だけど?」
「ばっかねー。一回聞いただけで、覚えられるわけないじゃない」

 潤也は一言言ってやろうと思ったが、忍の一字で思い止どまる。

 どこにでもいるものなのだ、こういう手合いはと、自分と同じ顔の造りをした人物を思い浮かべた。

「で、あんた、そろそろ本当のことを教えてくれてもいいんじゃない?」
「本当のこと?」

 里紗は興味深そうな瞳を向けると、くすりと含み笑いをしてみせる。

「あたしの見たところ、あんた、彼女と駆け落ちしたのね」
「…はあ?」

 潤也は何のことかと首を傾げる。

「惚けてもダメッ。で、あの女の子が嫉妬して追って来たんでしょう?」
「あのねぇ」
「でもダメよ、駆け落ちなんて。周りに祝福されて結ばれるのが、一番なんだから。そりゃ、いろいろ障害もあるでしょうけど、二人ならそれもきっと乗り越えていける筈よ」
「えーっとね、君…」
「分かったら、さっさと彼女を助けに行きなさい」
「だからね…」
「何だって言うのよ?」
「杳は男なんだってばっ」

 一瞬の沈黙。直後、里紗の目に輝きが灯る。

「何てラッキー。本物のホモが見られるなんてっっっ」

 顔を引きつらせて見せたのは潤也の方だった。

「で、二人はどこまで行ってるの?」

 潤也は詰め寄る里紗に説明するのに、数十分の時間を要した。


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