第 2 章
宝玉の戦士
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「それが人に物を尋ねる時の言葉使いかしら。困ったものね」
「ふざけるなよっ!」
「おお、こわ」
またくすくすと笑う。
「でもそれを聞いてどうするのかしら。貴方は今ここで死ぬというのに」
少女の方へ近づこうとした杳の鼻先に、キラリと光るものが突き付けられる。
剣だった。銀色に輝く痩身の剣を、彼女は手にかざし持っていた。
「この剣、覚えているかしら。これで貴方も死なせてあげるわ。天竜王はどんな顔をするかしらね」
冷たい笑みを満面に浮かべ、彼女は剣を上段に構える。
「一人で死ぬのは怖いでしょう。安心なさい、そこの彼も一緒に逝かせてあげるから」
冗談じゃない。何だって自分が。紗和はとっさに立ち上がり、杳の手を取る。
「あっ、えっ? ちょっと…」
体勢を崩しかけた杳の腕を引っ張り、紗和は駆け出していた。
「逃げても無駄よ。出口なんてあるものですか」
後方でその少女の声が響いた。
* * *
天井の丸い鉄板を持ち上げると、そこは道路の真ん中だった。
「うわぁっ」
迫って来たダンプカーに、潤也は思わず首を引っ込める。
そのすれすれのところを、大きなタイヤがかすめて行った。
「どうしたの、早く出てちょうだい」
「ここはだめだよ」
梯子の下から声をかける里紗に、潤也は引き返すように促す。
が、里紗はそんなことでは、引き下がらない。
「何言ってんの。やっと見付けた出口じゃないの。ここをのがして、また次にたどり着けるとでも言うの?」
彼女は強引だった。
二の足を踏む潤也を梯子から突き落とすと、今度は自分の手でマンホールの蓋を開けた。
「きょえーっ!」
上は見事に車の往来の中心だった。
叫んで、慌てて首を引っ込める。
「ちょっと、あんた男でしょ。なんとかしなさいよ」
「できるわけないだろう!」
水路に落ちて――落とされて、水浸しになりながら、潤也は怒鳴り返す。
言ってしまってからハッと後悔する。女の子相手に怒ってみたところで仕方がない。
第一、どちらかと言えば事の発端は自分にあるようにも思えるし。それが自分に責任がないことだとしても。
潤也は仕方なく立ち上がると、里紗に場所を開けるように指示する。
「車は急に止まってくれないと思うけど」
それでもこぼれる愚痴は、止まらなかった。
潤也はひょっこりと路上に顔を出すと、もう一度地上を伺った。
が、案に反して車はもう、やってこなかった。
その代わり、じっと自分を見下ろす人々の姿があった。車は、周囲で停車していた。
「あ、どうも、お騒がせしております」
そこが自動車専用道路でなかったことが、救いだったのかもしれない。
かくして、潤也と里紗は地上へ出ることに成功した。
* * *