第 2 章
宝玉の戦士
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 こういう暗い所で黙りこくっていたのでは、余計に暗くなるだけだと紗和も開き直る。

「それにしてもこれって、一体何事なんだろうね」

 紗和は改めて疑問を口に出してみる。

 どこかのテレビ局の、ドッキリカメラか何かとしか考えようもない。

「気をつけた方がいいよ。取って食われるかもしれないから」

 言ったのは杳だった。

 紗和は足を止め、顔を引き釣らせる。その紗和に気付いて杳は振り返り、にっこりと綺麗に笑って見せた。

「あんたなんて、おいしそうだから」

 そこまで言って、潤也に腕を引っ張られた。

「杳、いいかげんにしないと、僕だって本気で怒るよ。彼らは関係ないんだから」
「関係ない奴だから、危ないんじゃない?」
「杳っ」

 訳知り顔の二人に、問い正してみようかと思いあぐねた時、里紗が口を出してきた。

「あんた達、何か知ってんじゃない?」

 里紗が口に出すと、周囲にいた連中も一斉に二人の方へ目を向けた。

「さっきから聞いていれば、妙に落ち着いているしね」

 里紗の問いかけに、潤也と杳の二人は顔を見合わせる。

「知りたいのはこっちだよ。まったく、いいメーワク」
「ちょっとちょっと、杳」
「潤也だって頭にきてるくせに。どうせまたあの女の仕業に決まってるんだ」
「単なる偶然かも」
「これのどこがだよ。人を怖がらせて追い詰めていくやり口なんて、同じじゃんっ」
「ちょっと、杳ってば」

 怒鳴り始めた杳に、隣にいた潤也が慌てて口を塞ぐ。

「やっぱり何か知っているのね。言いなさいよ」
「知らないって言っているだろ」
「いいえ、知っているはずよ」

 と、いきなり、天井に僅かに灯っていた明かりが消えた。

 真っ暗闇とはこういうものを言うのだろう。

 紗和は甲高い悲鳴の聞こえる中、自分の鞄を足元に置き、チャックを開けた。

 宿で夜に友人達と探検ごっこをしようと思って持って来ていたものが、今頃役に立つとは思っていなかった。

 紗和は鞄の中から目的の物を取り出し、懐中電灯を握り締めた。

 カチャリと僅かな音をさせて、暗闇に眩い光が走った。

 紗和は明かりを点けたことを、思いっきり後悔した。

 そこに、光に照り出されたものは――鬼が人を食らう姿だった。

 紗和の喉が低く鳴り、そのままへたへたと座り込む。

「ばかっ」

 紗和の耳元で声がしたかと思うと、紗和の手から転げ落ちた懐中電灯はその光を消した。

「こっち。逃げるよ」

 短くそう囁かれ、ぐいっと腕を引っ張られた。

 紗和は震える足を何とか立ち上がらせると、その手に従った。その、柔らかく自分の手を握ってくる手に。


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