第 2 章
宝玉の戦士
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結局、列車から降りたのは、乗客の半分ほどの十数人だった。
仕事の用事で出張中のサラリーマン、買い物途中の主婦、暇な大学生等など。
紗和と里紗は修学旅行の最中であるが、それではこの二人、今頃だと学校も休みではないだろうに。
次々と灯る明かりに向かって歩く人達の中をくぐり抜け、紗和と里紗は二人に追い付く。
「あんた達、駆け落ちでもしたの?」
話しかけようとすると、先に杳が聞いてきた。
余りの突飛な質問に、紗和と里紗の二人は顔を見合わせる。
「だーれがこんな軟弱男と!」
里紗が即答。
「これは弟よ、見て分からない?」
「そっか、道ならぬ恋をした訳だ」
「あんたねぇ」
どうやら、さしもの里紗でも、歯がたたないようだった。
笑いながら、今度は紗和が答える。
「修学旅行の途中なんだ。団体とはぐれてしまって、今夜泊まることになっている旅館へ向かうところだよ」
「そう。このおバカが迷子になって」
紗和ははあえて、里紗の言葉を取り消さなかった。
「北海道から来たんだ。僕は新堂紗和。こっちは姉の里紗。年子なんだけど、同じ学年なんだ」
そう言ってから、紗和は相手の二人を見比べる。
見たところ、学校をさぼって遊び回るような子達には見えない。そんな紗和の伺うような視線に気付いて、杳が答えた。
「学校が当分の間休みになったから、遊び回ってんだよ」
「休みって…?」
「校舎がぶっつぶれちゃって、やむなく休校。オレ達は自宅学習の身なんだ」
紗和は杳の言葉に少し首を傾げる。「オレ」って杳は今言ったのだろうか。女の子なのにと、ちょっと呆れながら。
「全国ニュースで流れてたけど、聞いてない? 一週間程前、竜巻に襲われたっていうの」
そう言えば聞き覚えがあった。里紗もそれを聞いて、自分達の学校も潰れれば当分休みになるだろうと、口走っていたのを思い出す。
「あれがオレ達の学校」
思った通り、里紗が羨望の目を向けるので、釘を刺す。
「里紗、帰ってから校舎に放火しようなんて思わないようにね」
「ん。ばれたか。さすがは16年もあたしの弟やってるだけあるわね」
多分、半分かそれ以上本気だと思う。帰ったら、当分は見張っておかなければならないかも知れない。
「それで二人の関係は? 恋人とか?」
いきなり里紗が核心をついた。
途端、潤也が慌てて訂正する。
「ち、違うって。友達だよ」
この慌てぶりからして、あながちそれだけではなさそうに思えた。が、杳はまったく意に介さない様子で答える。
「友達って言う程でもないんだけどね」
そっけない言葉に、潤也は切なそうな顔をする。
紗和には何となく、二人の関係が見えた気がした。
「オレは葵杳っての。で、こっちの…何赤くなってるんだよ」
杳は隣で赤くなったり青くなったりしている潤也を肩肘でつつく。
「これが結崎潤也。ちょっとトロそうに見えるけど、本当は相当トロい」
「杳〜」
「冗談だってば」
元気よく声を上げる杳に、周囲の冷たい目が光る。