第 2 章
宝玉の戦士
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 ホームに降りてみて、驚いた。

 薄明かりで振り返って見た列車は、前後の車両が消え失せていたのだった。

「多分、この車両だけがここへ迷い込んだんだろう」

 潤也が言った。

 さっきからどうも訳知り顔のように紗和には思えた。

 その彼の表情に気付いて、笑いながら言う潤也。

「大丈夫だよ、きっと。関係ないと分かったら返してくれるって」
「無理じゃないの?」

 隣で口を尖らせるのは杳。

「まあ、運が悪かったと思って、諦めることだよ」

 その時、列車のドアが閉じられた。中で渋っているらしい人も何人かいたようだったが、それを確かめる事なく。

 そして再び、静かに走り始める。

「乗ってればよかったんだわ」

 走り出した列車を見て、里紗が言う。

 彼女の他にもそう考えた人もいたらしく、口の中で毒づくのが紗和の耳に聞こえて来た。

 と、天井の電灯がいきなり消える。そして次にはホームの奥の方に、小さく光が灯る。

「来いとでも言っているみたい」

 里紗が擦り寄って来る。何となく危険の気配が感じられた。

 どうしようかと迷っていると、後方で金属のぶつかる音が聞こえてきた。

 音は壁の中を反響し、不気味なほどに震えた。

 紗和は背中にゾクリとしたものを感じた。

 音がしたのは今し方列車の走って行った方向だった。まさかと思った。が、調べるすべもない。

 どちらにしても、先へ進めという指示なのだろう。

 躊躇(ちゅうちょ)している人達の中、杳が先頭を歩き始めた。潤也が慌てて追いかける。

「里紗、行こう」
「だめよ。来た道を帰る方がいいわ」

 里紗らしくないと思った。

 いつもならいくら危険だと言って止めても、つい飛び出してしまう彼女なのに、今回はやけに気弱だった。

「帰るったってどうやって?」
「レール沿いに帰ればいいのよ」
「真っ暗な中を?」
「光に照らされている所が安全とは限らないわ」

 里紗の言い分も一理あると思う。

 しかしこういう場合は、多人数で行動した方が有利だという思いが、紗和には強かった。

 まだしのごの言う里紗の手を取り、紗和はみんなの後を追いかけた。


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