第 2 章
宝玉の戦士
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「何があったの?」

 杳は潤也を見上げる。潤也の方はそれに対して、首をすくめて見せただけだった。

 車内にはざわざわと不平の声が沸き始めていた。

 本来ならばこのような時、すぐにでも現状を知らせる車内放送が入るはずだが、何の放送も入らない。

 と、スーと音がし、列車はドアの口を開く。

 よく外を見ると、そこは地下鉄のホームのようだった。

「ちょっと変じゃない?」

 里紗が紗和の服の裾を取り、つぶやく。紗和はうなずいてから、窓の外に目を凝らす。

 ホームには人影はなく、ただ薄暗い裸電球の光だけがあった。いかにも怪しげだった。

「終点、竜魔ケ谷」

 アナウンスが入る。

 不平と疑問の声が高くなる。その中で、潤也の小さな舌打ちが紗和の耳に入った。

「まさか。ここまで追って来たのか…」

 見返した紗和と目が合うと、慌てたように逸らす。

 何かあるのかと直感した時、車内の電気が一斉に消えた。

 驚いたのだろう、車内の前後で女性の悲鳴らしきものも聞こえた。

「終点って言ったね。降りてみようか」

 そう言ったのは杳だった。その声を聞き付けて里紗が言う。

「冗談でしょ? こんないかにもうさんくさい所。推理小説にはよくあるわ。こういう所で降りるとみんな怖い目にあうの。で、助かるのは主人公だけなのよ。第一この列車は人間がちゃんと造ったもので、本社との連絡も取れるはずよ。それに比べて外は場所も分からない未知の所。どっちかって言ったら、やっぱりきちんとしたレールの上にのっかっている方が安全だわ」

 一気にまくし立てる里紗。彼女の口から出たものでなかったら、もう少し説得力があったかもしれない。

 紗和はつい吹き出してしまい、姉の怒りを買ってしまう。

「そうだね、正しいレールの上を走っているとしたらね。だけどそうだとしたら、こんな所にたどり着くと思うかい?」

 潤也の言葉に、里紗が簡単にうなずく。里紗も人のことは言えないと、この時思った。潤也も、よくよく見るとこれが結構二枚目で、里紗の好みだったのかもしれない。

 いきなり声のトーンが高くなる。

「それもそうね。降りてみましょうか」

 くすりと笑って、紗和は立ち上がった。


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