第 2 章
宝玉の戦士
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 ところが、相手も肝が座っているらしく、里紗の鼻息になどびくともしなかった。むしろ、おろおろしていたのは、連れの潤也と呼ばれていた少年の方だった。

「ちょっと、ちょっと、だめだよ、こんなところで…。他の人の迷惑になるよ」

 紗和は彼に自分と同じものを見たような気がした。苦労しているんだなと、つい同情してしまう。

 その一瞬の間に、「ぐぎゃ」というねじれた悲鳴が聞こえた。

「痛いっ、痛いわよ」

 見ると、さっきとは逆に、里紗の方が腕を取られ、ねじり上げられていたのだった。

「最初に喧嘩を売って来たのはそっちじゃないか。何を惚けたこと言ってんだよ?」
「こらこら、杳っっっ」

 潤也が慌ててその少女――杳(はるか)とよばれた「少女」の手を取り、里紗から引き離す。

「女の子相手に何やってるんだよ」
「だってあっちが…」
「だってもへったくれもない。さあ、次降りるんだからね」

 潤也の言葉に、何かが引っ掛かると紗和が思ったその時。

 キキキーッと、鋭い急ブレーキの音を立てて、列車が止まった。

 杳と潤也はその場に尻餅をつく。

 紗和は倒れかかった里紗の下敷きになり、その拍子に背中を手すりに強(したた)かにぶつけてしまった。息が詰まり、咳き込む。

「き、君、大丈夫?」

 一番心配してくれたのは、潤也だった。里紗などは知らんぷりで、座席に腰を据え直す。

 紗和は助け起こされながら、辺りに目をやった。

 窓の外は、車内の光が映し出す無表情なコンクリートの壁が見えるだけのトンネルの中だった。


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