第 2 章
宝玉の戦士
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「少女」は、その切れ長の目を心持ち吊り上げたかと思うと、つかつかと紗和の方へ歩み寄って来た。慌てて止めようとする連れの少年の言うことなど聞かない様子で、紗和の目の前まで来て、睨み据える。
顔はどう見ても怒りの表情をたたえていた。その表情のまま、紗和に聞いてきた。
「何か用?」
「えっ? あ、あの…」
突然聞かれて、言葉が出て来ない。おまけに舌がもつれる。
「どうもすみません。さ、次降りるんだから」
連れの少年が、「少女」の手を取る。
が、その腕をパシリと叩き落として、逆に少年の方に食ってかかった。
「何言ってるの。ガン飛ばされたのに、黙って引っ込めっての?」
「ガン…?」
別に自慢する訳ではないが、自分でも姿形は整っている方だと思う。その自分が見つめていたのに、睨んでいたと思われたなんて、何気にショックだった。
「もう、いいから。行こう」
「ガン飛ばしてるって言ったの潤也じゃない?」
「見てるって言っただけだよ。まったく、何聞いてんだよ」
ムスッとむくれて見せる「少女」。呆れたふうに口を挟んだのは、里紗だった。
「まあまあ、こんな所で痴話喧嘩なんてみっともないわよ」
次の瞬間、ガンを飛ばすというのは、こういうことだと紗和は思った。その少女は、里紗を怖い顔で思いっきり睨み据える。なまじ綺麗な顔立ちをしているものだから、余計に凄みがあった。
さしもの里紗でさえ、一瞬絶句していた。
しかし、さすがは里紗である。たじろいだ後の反撃は凄まじかった。
「いい度胸してるじゃないの。あんた、あたしに喧嘩売ろうっていうの?」
立ち上がり、相手の胸倉を掴む辺り、女の子のすることではないと、紗和は常々注意をしていたのに。
紗和は、彼女の腕を取り、引き離そうとした。しかし、逆に跳ね飛ばされてしまった。
「ひっこんでなさい、紗和」
紗和にそう怒鳴って、里紗は今度は相手に向けて、悪態雑言を言い放つ。
「なーによ、ちょっとくらい見てくれがいいと思って。あんただって一皮むきゃ、ただの骸骨じゃない」