第 2 章
宝玉の戦士
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 言ったのはついきっき、里紗を笑った人物だった。

 多分、紗和達と年の変わらぬであろう少年だった。いや、服装はともかく、白く滑らかな肌や紅を刺したような赤い唇は、少女のもののようにしか思えなかった。

 そして、その時、何よりも紗和の心を捕らえたのは、その引き込まれるかのように深い色をした瞳だった。

 いつだったろうか、どこかで見たような、心の奥に沈んでしまった大切な宝物のような、そんな気がした。

 もしこの時、紗和がもう少し冷静に相手を観察できていれば、相手の性別を間違えると言うことはなかったのだが。

 どれだけ見つめていたのだろうか、ふいに里紗に手の甲をつねられた。

「痛いっ」

 思わず声をあげて、我にかえると、里紗は新しい意地悪でも見つけた時のような目で見返していた。

「朴念仁(ぼくねんじん)かと思ったら、単なる面食いだったのね」
「な、な、何のことだよっ」
「すっごい美人よね、あの子」

 紗和は顔を赤くしながら、慌てて件の「少女」へ目をやる。今の里紗の言葉を聞かれて変なふうに思われてもと心配したのだが、既に相手の方はこちらへの興味をなくしているようで、連れの少年と話をしていた。

 何だ、男連れかと内心がっかりしている自分に気づく。その紗和に、里紗のからかうような言葉。

「紗和、あんたの方が勝ってるわよ」

 相手にするまいと思って無視しようとしたら、次に姉はとんでもない言葉を付け加えた。

「大丈夫。先にやっちゃえばあんたのモノよ」
「何言ってんだよっ!」

 思わず声が大きくなり、周りにいた人々が、何事かと振り返る。

 紗和の声に、隣にいた「少女」がくすくす笑った。

 紗和はカーッと頭に血が上って行くのを感じた。もう、場所を変えたいくらいだった。

 と、その時になって、ようやく列車がホームに滑りこんできて、紗和は大きく安堵のため息を漏らした。


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