第 1 章
竜神目覚めるとき
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 そしてまた玄関の戸の鳴る音がした。

「昼間僕らをつけて来っていうのは二人だって言ってたね?」
「そうだけど…」

 潤也は手近にあった棒きれ――土間用の箒を杳に手渡した。何をするのかと問う杳にドアの方向を指さして見せる。

「真夜中のお客様らしいね。丁重にもてなしてやらないといけないだろう」

 杳はすぐにピンときた様子で表情を変えて見せる。潤也と同じように靴を履き土間に降りる。

 潤也はゆっくりと戸のつっかえに手を伸ばし、杳は大きく手を振り上げる。

 せーの、と、呼吸を合わせてから潤也は戸を開けた。

 杳は箒を振り降ろそうとした。が、ぴたりと止まった。潤也も握った手からぽとりと棒を落としかけた。

 戸口から済まなさそうに入ってきたのは、どう見ても70を超えた老爺だった。

「いやいや、すまんのぉ。山へしばぁ刈りに来たら日が暮れちまって」

 老人はそう言いながら土間の上がり口に重い腰を据えた。潤也は拍子抜けをしてしまった。

「天気がいいもんで、昼寝しよったらこんな時間でな。ちょっくら朝まで休ませてもらおうかの」

 老人はそう言って潤也の方を見た。

 お年寄りには親切にを心掛けている彼は思わず笑顔で答える。

「どうぞ、どうぞ」

 と、彼の脇にスッと杳が寄ってきて潤也の腕をとる。何げなく見た杳の顔はすっかり青ざめていた。

「どうした?」

 潤也の問いに何も言わずぐいっと引っ張る。老人の方へちらりと目をやってからちょこんと頭を下げ、潤也は杳に引かれるまま外へ出た。

「どうかしたのかい?」
「逃げよう、ね」
「あのお爺さん、知り合い?」
「知り合いも何も、先週焼け死んだって言った、オレのじいさんそっくりなんだ」
「まーっさか」

 言いながらも、潤也はそれでもゾクリとしたものを背中に感じた。

 振り返って見た屋敷の中には、さっきと同じように座っている老人の姿があった。が、ちろちろと燃えるいろりの火の作る老人の影は奇妙な形をしていた。

 作りそのものはヒトと変わらない。ただ、頭部に二つの突起が生えていた。ツノだ。

「外は寒かろう。中へ入りゃぁいいものを」

 老人が声をかける。杳は身を堅くして潤也の腕をつかんだままだ。その杳に安心させるように笑って見せてから、潤也は答える。

「ちょっと薪を探して来ます。お爺さんはゆっくりしていってください」

 そう言うと潤也は戸を閉め、杳の手を取った。


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