第 1 章
竜神目覚めるとき
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夜中、物音がしたような気がして目を覚ました。
いろりの中で燃えていた火がほとんど消えかかっていた。起き出して薪をくべる。
時計を見るとまだ一時半をさしていた。夜明けまで随分時間がある。もう一眠りしようかと再び布団にもぐりこもうとして手を止めた。
傍らですやすやと静かな寝息をたてて杳が眠っているのが見えた。寝る前は部屋の隅にいたのに、寒くなったのだろう、いつの間にか火の側へ寄っていた。
誰だったかいつか、杳のことを猫みたいなヤツだと言ったことがあった。
気まぐれでめったに人と交わろうとしない。自由奔放で気に入らないことには、目もくれようとはしない。
色々と尾ひれのついた噂も耳にしたことはあるが、実際は不良というわけではないだろう。が、学校を休む日も多いため、学校での友達も少ないのではなかろうか。
しかし杳にとっては、そのようなこと一向に苦にならないのだろう。誰に好かれようと誰に嫌われようと自分の思うとおりに、自分の好きな所へ寄っていく。
潤也には怖くてできないようなことを、いとも簡単に彼はやってのけるのだろう。
杳のことを知ってから一年になる。
ずっと、思いだけを抱えていたのだ。声をかけることもできずに、ただ見つめていた。
それなのに、昨日まで口を利くことさえなかったのに、今は自分の手の届くところにいる。潤也は妙な気分だった。
そのとき入り口の方から物音が聞こえた。風の音だろうか。潤也はたいして気に止めず杳の寝顔を見つめていた。
と、再び物音。
風の音にしては他の雨戸などの音がしない。入り口だけというのが妙だ。
潤也は昼間のことを思い出した。自分達はずっと誰かにつけられていたと杳は言っていたではないか。そして崖の上から落ちてきた岩。なぜだか分からないが、どうやら狙われているらしい。
潤也はそっと靴を履き、土間に降りた。その潤也の肩に触れるものがあった。振り返ると杳がいた。いつ起きたのか、心配そうな表情を浮かべていた。
「何の音?」
「分からない。見てくるよ」