第 1 章
竜神目覚めるとき
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そこには大小幾つかの竜の絵が描かれていた。
まず上方に大きな竜、下方にも同じ大きさのもの、その間を幾つかの竜が舞う、そんな絵柄だつた。
「1、2、3、4、5…」
潤也はひとつづつ数えてみる。竜はなるほど杳の言うように合計11体あった。
「紫と赤か…」
昨日見た形のものが、そこにあった。
赤は炎の形をし、猛々しい勢いで舞っていた。その右には寄り添うかのように白い色をした竜がいた。炎の形は右から左へ流れている。風を意味しているのであろうか。
また紫の竜は地上に近く、その周りを花弁が舞っていた。
他にも水を形どる青い竜、石か鉱物をあらわす朱色の竜、光をあらわすもの、反対に闇のもの、緑多き中に戯れるもの、静かに目を閉じ歌うかのように語るかのように舞っているもの。そして竜達はその手――足にそれぞれ一つずつ玉を持っていた。
これらの竜を挟むように上下の竜はあった。
上方の竜は銀色の剣を二刀持ち、下方の竜は黄金色の鏡を握っていた。この二体の竜は、他のものと比べてひとまわりは大きく描かれていた。
潤也はその壁画に近づこうとした。が、杳が不満声で引きとめる。
「前へ行ったら陰になって見えないよ」
仕方なく潤也は下がる。
杳の隣へ立ってみて、首を傾げた。
「銀の剣…?」
杳の顔を見る。光の照り返しを受けて、薄暗い中に彼の白い顔はあった。杳は壁画に目を向けたまま答える。
「多分ね」
翔の手に握られていたあの銀色の剣は、ここに描かれているものと同じ形をしていた。杳はこのことに既に気付いていたのだろう。だからこそここへ来ようと言ったのだろうし、翔の手に現れた剣に異常に驚いていたのだろう。
「あれ、何かな?」
ふと潤也は下方の竜の周りに散らばる五つのおたまじゃくし型の玉を見付けた。丸い形をしているが、その一部から尾を引くようにして突起が突き出て、軽く曲がっているのだった。中央に一つ、左の上下、右の上下、合計五つあった。
「勾玉らしい」
「まがたま……?」
「ずーっと昔にひいおじいさんに聞いた話なんだけど、あれは勾玉って言って、遥か昔の人々の祈りが込められた清い珠なんだって。ほら、これ」
杳は中央にあるそれを指さす。