第 1 章
竜神目覚めるとき
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 バスの終点には人の気配はなかった。
 村は遥か下の方にあったきりで、この辺りにはもう誰も住んでいないのだろう。

「こっちだよ」

 杳が先に立って歩き始める。

 ダムの変電所があるため、職員の姿が河対岸に見えたが、向こうはこちらに気付かないで行ってしまった。その後は人と出会うことはなかった。

 寂しい所だと潤也は思った。

 山の樹木は若葉を吹き出し、流れる風に揺れている。山鳥が遠くで近くで鳴く声も透き通っていた。自然の恵みがそこかしこにあるところなのに、潤也はふと物悲しくなってしまう。

 先を行く杳は一向に変わることなく元気に歩いていた。どこからあのスタミナが沸いてくるのだろうかと不思議なくらい元気だった。父親の実家だということなので、きっとこの辺りの山歩きは慣れているのだろう。

 そう潤也が息を切らしながら考えていると、いきなり杳は振り向く。

「疲れた?」

 それまで一言も口を利かずに歩いていたものだから、いきなり声をかけられると驚きの方で心臓が飛び上がった。そんな潤也をおもしろそうに眺めやりながら杳は続ける。

「少し休んで行こうか。先は長いし」

 杳は適当な場所を選んで草の上に座り込んだ。ついさっき昼食のお弁当を食べたばかりなものだから、座り込むとついごろ寝がしたくなった。

「天気いいなーっ」

 大きく伸びをして杳が言う。

「みんな今頃昨日の片付け、させられてるんだよ、きっと」

 昨日のこと、二体の竜が――そのうちの一体はどうやら寛也らしいが――壊してしまった校舎を学校指定の業者が来て早速片付けるらしいが、男子生徒はその手伝いを命じられていた。
 片付けたとしてもすぐに授業が始まるでもなく、三年生以外はしばらく自宅学習となっている。

「オレ、昨日学校さぼったものな」

 杳は昨日に限らず、うわさによると一週間に必ず一日か二日は休むらしい。ちゃんと出席日数を数えているとのことだが、この点はあまり感心できたものではないなと、優等生の潤也は常々思っていた。が、そんな奔放に振舞う杳をうらやましいと思っていたことも事実だった。

 といきなり杳が立ち上がる。

「もう良いだろう。行くよ」

 ぱたぱたとGパンについた草を払うと、既にもう歩き出していた。潤也はあわてて立ち上がり、杳の後に続く。

「どうしたんだよ、いきなり」
「別に」

 そっけなくそう言ったきりまた杳は口を閉ざした。潤也は戸惑いながらも、遅れないようにと杳の後を追いかけた。


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