第 1 章
竜神目覚めるとき
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 潤也は誰にも見つからなくて、しかも日当たりの良い芝生の上を選んで寝転がった。

 やがて襲って来た睡魔にとろとろしかけた頃、頭上でいきなりバイクの音が聞こえて、止まった。

 さぼっているのを見付けられてはまずいと、潤也は頭を低くしたまま様子をうかがった。

 見ると、どうやら生徒らしいのが一人、そこへバイクを止めていた。

「こらーっ、誰だっ!」

 バイクの音に気付いてすっ飛んで来たのは、生活指導の大山だった。体育の教師で、潤也達はそれまで体育の授業でかなりしごかれ、その恐ろしさはよく知っていた。

 ますます見つかるわけにはいかないと、潤也は身を縮める。

「バイク通学は校則で禁じられとるだろうが」

 大山の雷が落ちる。が、相手は臆した様子もなく言い返す。

「じゃあ、今日は欠席ということでお願いします」
「こらこらこら〜っ!」

 あの大山に向かって、何て大胆なヤツだと潤也は思った。

「お前、何を考えとるんだ。クラスと名前は?」

 聞かれて初めてヘルメットを取った。それが杳だった。

 潤也はそのとき初めて杳の存在を知った。

 白く滑らかな肌や赤い唇は少女のものであったが、瞳は内に強い意志を秘めた強固なものであった。その細い四肢からは想像しがたいものが彼の内から沸き上がっているように見えた。潤也は一目で杳に引かれてしまった。

 以来、何かにつけて目の端に彼の姿を認めることが多くなった。クラスの女子の口の端にも結構のぼり、気がつくと耳を傾けていたこともしばしばだった。

 潤也はその杳と口を利くのは今日が初めてだった。運悪く、去年一年間はクラスばかりか棟まで違い、合同クラスで一緒の授業を受けることもなかった。

 二年に進級しても潤也のクラスは二階、杳のクラスは三階にあった。ひたすらに擦れ違いだった。


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