第 1 章
竜神目覚めるとき
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「何を、そんなくだらないことでムキになっているのさ?」
「くだらない?」
すでに二人は潤也のいることなど頭の中に入っていないようだった。おろおろしながら、潤也は成り行きを見守っていた。
「さあ、もういいから帰ろう」
「いやだっ!」
強い口調で拒絶する翔。
翔には、自分でも本当は見まちがいだろうと何だろうとどうでもいいことだとは分かっていた。ただ、意地になっているだけだということも、そんなことを通したって何にもならないことも分かっていた。
が、言い返さずにはいられないものが、内から沸き上がって来て止められなかったのだ。
「僕は嘘なんか言わないし、本当に見たんだ。杳兄さんだって知っているくせに。嘘ついているのは杳兄さんの方じゃないか」
こんなこと言うつもりじゃなかった。しかし一度せきを切ってしまうと、あふれるように出て来る言葉。
「父さん母さんのことにしたってそうだよ。杳兄さん何か知っているんだろう?何で黙っているんだよ。分かんないよ、もう、杳兄さんなんかだいっ嫌いだ」
自分でも子どもじみた事を言っているのは分かっているが、それでも言わずにはいられなかった。
翔の両親はつい一週間前に急逝した。
翔の家は地方の旧家で広い庭を持つ、大きな屋敷を構えていた。
両親と祖父母、今は東京の大学へ行っている兄と翔との六人家族で平和に暮らしていた。そんな時、事は起きた。
昼のひなか、大きな屋敷から炎が舞い上がり、祖父母両親もろとも焼け崩れてしまった。
翔が知らせを聞いて学校から駆け付けたときには、家はもう手のつけられない状態だった。
田舎の事、他の家へ簡単に燃え移ることさえなかったものの、翔の家は全焼、焼け跡から出て来た四人はそれと区別がつかないほど黒焦げになっていた。
原因について、なぜか翔には知らされなかった。
出火について不審火の恐れがあることと、その時間会社に行っていたはずの父がなぜ家に居たのかということ、うわさは翔の耳に幾度か入って来たが、真相については兄の澪も誰も何も言ってはくれなかった。
翔の気持ちを考えてくれてのことだったと思うが、それでも翔にとっては深い傷となっていた。