第 1 章
竜神目覚めるとき
-2-

5/12


「翔くん、随分探したよ」

 翔は杳に拗ねたような表情を向ける。

「さあ、もう帰ろう」
「信じてくれる?」

 翔は上目使いをしながらそう聞く。

「見えないならそれでもいいよ。だけど信じてくれる?僕の言うこと」

 眉をしかめる杳を、翔は心配そうに見上げる。

 黙っていられなくて、つい潤也は口を挟んでしまった。

「その子の言っているのは本当だよ」

 潤也の存在に初めて気がついたかのように、杳は振り返った。

 潤也は心なしか、自分の頬の赤くなるのを覚えた。

「あ、あの、僕……」

 振り返ったのはほんの数秒。黙ったまま、じろりと睨むように見て、杳はそのまま潤也を無視するように、翔に向き直る。

「信じると言ったら帰る?」

 翔の顔が少し明るくなる。が、次の杳の言葉に、すぐに元に戻る。

「言うのは簡単だけど、オレは信じたくないんだよ」
「どーいうこと?やっぱり杳兄さんにも見えてるんだ?」

「…いや」

 間をおいて、首をふる。

「信じる気なんてないよ」
「杳――」
「それで翔くんが納得しないっていうのなら、引きずってでも連れて帰る」
「僕の気持ちなんてどうでもいいわけ?」

 一瞬さすがに杳も返答に困ったようだった。が、次に出された言葉は横で聞いていた潤也でも、少しムッと来るものがあった。

「…そうだよ」

 言われて翔は杳をにらみ返した。

「さあ翔くん、帰ろう」

 翔は腕を取ろうとする杳の手を振り払う。

「もういいよ。信じないって言うなら、現物を杳兄さんの前に引っ張って来てやるから」


次ページ
前ページ
目次