第 1 章
竜神目覚めるとき
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空には白い月が昇っていた。その周囲を巡るかのように、赤と紫の竜が舞う。
潤也は天に舞うそれに近づこうと、丘を登った。ここはこの町で最も天に近しいところだった。
あれは不吉なことの始まり、近づいてはいけない、必ず不幸になる、あれはまがまがしいもの、心の中で警戒の声がこだまする。しかし自分をひきつける、とてつもなく懐かしいもの。
ふと見ると、誰かいた。
近づくと、潤也の気配に気付いて振り向く。見慣れない少年だった。
が、彼はその少年に、銀色に輝くオーラを見た。兄の寛也のものよりずっと強く、輝いて見えた。
潤也は足を止める。少年は潤也に向かって天を指さして見せた。丁度二体の竜が舞っていた方向を。
「あれが見える?」
潤也は一瞬、返答に困る。
「あれは竜だ。赤い竜と、紫の竜。なぜ誰にも見えないって言うの?」
潤也は空をふり仰ぐ。誰にも見えないはずはない。潤也にははっきりと見えていた。そう答えようとして口を開きかけたとき、潤也はその少年が泣いているのが分かった。
その少年――翔は、はばかる事なく流れ出るものを袖で拭った。
強い風が頬をたたく。翔は顔を背けるでもなく、その目を竜に向けている。潤也の目にはその翔のオーラが強くなったように見えた。
と、次の瞬間、それがいきなり小さくなる。
「翔くん」
丘を駆け登ってくる人影が見えた。潤也からは丁度光の加減で顔が見えなかった。が、その声には聞き覚えがあった。
相手は潤也の存在に気付かないように、その前を通り過ぎ、翔の前へ立った。
すれ違うとき、潤也は相手の横顔を見た。
聞き覚えがあるはずだった。それは潤也と同じ高校に通う同級生だったから。
――葵杳。
潤也には、ひっそりと、特別な存在だった。