第 1 章
竜神目覚めるとき
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 ノックの音にドアを開けると、翔が立っていた。

「杳兄さん、竜だ。外見て」
「また、そんなものいるわけ…」

 言われて窓の外に目をやり、杳は一瞬絶句した。

「ね、ね、あれ竜だよ。それも二匹、昼間のヤツだ」
「…何も見えないよ」

 そう言う杳を、翔が見返す。

「見えないの?杳兄さんにはあれが見えないの?」
「あれって、変な形の雲だね」

 翔は不平いっぱいの顔を見せる。それに気付かない振りで、杳は続ける。

「昼間のだってニュースで言ってたじゃないか。竜巻だって」
「こんなところで竜巻なんて聞いたことない」
「さあ、もういいから」

 杳はそう言って翔を彼の部屋へ返そうとした。その手を振り払って翔が低くつぶやいた。

「…わかった」
「翔くん?」
「僕、あいつの正体を捕まえて来る。だったら信じてくれるだろ?」
「バカ言ってないで、明日から学校へ行くんだろ?」
「学校なんか壊れちゃったじゃないか」

 今日の『竜巻』の襲ったのは杳の通っている高校――翔の通うこととなっていた高校だった。校舎は全壊してしまったため、しばらくの間休校になると決定していた。翔にとってみれば、転入早々幸先が悪いと言えた。

「杳兄さんも僕の言うこと信じないの?」

 杳はそう言った翔の顔を見て、はっとした。

 翔はその杳の表情に気付かず――。

「大っ嫌いだよ、杳なんてっ!」

 翔は叫ぶと、杳を突き飛ばして飛び出して行った。慌てて追いかける杳。階段を降りて、そのまま翔の後を追って玄関を出ようとして、いきなり首根っこをつかまれた。

「何してるの、杳」

 見やると母親が怖い顔をしていた。まずいと思ったが、急いでいたので言い訳している間もない。

「オレが悪かったんだ。連れ戻してくるよ」

 母親の手を振りほどくと、杳はそのまま夜の道を駆け出した。


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