第 1 章
竜神目覚めるとき
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「まーったく、重かった」
ベッドの中に押し込まれた後、浴びせられた言葉はこれだった。それでも見捨てられず、ここまで運んでくれたことはうれしかった。それが顔に出てしまったのだろう、杳は照れ臭そうに潤也から目をそらす。
「これで借りは返したんだからな」
潤也はうなずいて顔をほころばせる。
「ありがとう」
潤也の言葉に、杳はつんとそっぽを向いて答えただけだった。それだけで潤也には十分だった。
「本当に体の弱い弟を置いて、兄貴はどこへ行ってしまったんだよ?」
「ヒロは…もう帰って来ないかも知れない」
「は?」
「僕は見たんだ。ヒロが赤い、炎のような竜に変わっていくのを」
「竜?赤い竜ってあの…?」
丘の上で杳も見た筈だった。月明かりに天を舞う二体の竜を。そしてそのうちの一体が炎の色をしていたことを。
「まーっさか。だって竜って…」
「僕だって信じられないよ。竜にしたってもともとは架空の動物だし、人がそれになるなんていうのも三流SFがいいとこ。だけど…」
潤也はふと、自分の頬に触れるものを感じた。杳の白い指が伸びて、潤也の頬を流れるものを優しくぬぐう。そんなふうにされると余計に弱くなってしまう。が、溢れるものは止まらなかった。
「ずっと二人きりだったんだ。母さんが死んで、父さんが単身赴任で東京へ行って…おばさんちにもいられなくて、二人で家を飛び出して」
杳は潤也のベッドのふちに腰掛けてくる。
「あんなのでも…たとえ学校中の笑い者と言われる奴でも、僕にとっては大切な…」
自分がいなくなって困るのは寛也ではなかった。自分にとって寛也こそ、いなくてはならない存在だったのだ。
「捜しに行こうか?」
信じられないくらい、優しい言葉が聞こえた。その声に、潤也は顔を上げる。
「オレもさ、翔くんを捜さなきゃならないし…あの子は竜を追って行ったことだし。一緒に捜そうか」
杳はそう言って潤也にほほ笑んでみせた。