第 1 章
竜神目覚めるとき
-2-

1/12


 その夜、潤也はなかなか寝付かれなかった。

 昼間のことがどうしても気になっていた。あの時自分の見た物は本当に竜だった。そしてその竜に潤也はあろうことか兄の寛也の影を重ねていた。

 あの後、他のみんなに聞いてみたが、寛也の言うとおり、竜を見た者はいなかった。あれだけはっきりと潤也には見えていたのに、一人として見ていないなんていうのはおかしい。かと言って、みんながみんな口裏をあわせるわけがないし、そんなことをしても何にもならない。では潤也が幻を見たというのだろうか。

 いや、自分は確かに現実のものとして見たのだ。それでは――。

 潤也には何か裏があるように思えてならなかった。

 と、軽い振動があった。潤也はパッと、とび起きる。

 物音は隣の寛也の部屋からだった。何事だろうかと潤也は耳を凝らす。またベッドから落ちたのだろうか。

 バターン!

 もう一度、今度はびっくりするほど大きな音がした。とともに、それまで明るかった月がいきなりかげる。潤也はベッドから出て窓に駆け寄った。

 カーテンを開けて見るとそこには黒く細長い影が天を覆っていた。

 戸を開けると強い風が潤也を襲った。あわてて閉めようとする。その彼の目に隣のベランダに立つ人影が映った。

 寛也だった。

 赤い赤い、炎のような――オーラのようなものが寛也の全身を包んでいる。

 寛也の右手がゆっくりと挙がる。赤いオーラが輝きを増す。その輝きの中で最もよく光を宿していたのは右の手だった。そこには赤い、ピンポン玉ほどの大きさの玉が握られていた。

 潤也はそのような玉をいつかどこかで見ていたような気がした。どこでだか思い出そうとした時、寛也の様子が一変した。

 右手に持った赤い玉から光の帯が尾をひいて伸びて行く。長く長く天へ向かってまっすぐに。そしてその帯は潤也の見ている前で一つの形を取り始めた。

 ――竜。


次ページ
前ページ
目次