第 1 章
竜神目覚めるとき
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「母さんが待っているんだ。行こう」
「うん」

 促されて翔は素直に従う。

 と、今度は杳が不審の声を上げた。

「あれ…何?」
「えっ?」

 翔は杳の指さす方向へ目をやる。

 東の空に漂うかのように浮かんでいるもの、紫色をした雲のようなものだった。しかし、雲にしてもその色は夕暮れにはまだ時間のある今の時間に不釣り合いだった。

「竜――」

 呟いて、翔は自分の中に一種の怯えにも似た感情の生まれるのを感じた。

 自分でも正体の分からないその気持ちのありかを探った。

 ずっとずっと探していたものの正体が、今にでも分かりそうな気がした。

 そんな翔の様子に、杳はいきなりアクセルをふかす。

「出すよ」
「えっ?」

 翔はあわてて杳にしがみついた。

 が、その目は東の空へ向いたままだった。


   * * *



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