第 1 章
竜神目覚めるとき
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「こっちでの手続きはもうできているから、何も心配することないよ」

 翔よりも細いその腕では彼の荷物は重かろうと、ぼんやり考えていた翔は、そう言われてはっと我に帰った。

 相変わらずあの瞳が彼を捕らえている。

「こらっ何て顔してる。男だろ、しっかりしなよ」
「だって…」
「だってもへったくれもない」

 杳の顔にうっすらと怒りの表情が浮かんだように見えた。

 彼はプイッとそっぽを向くと、さっさとホームを降りて行った。

 翔は彼とは反対に歩みが遅くなる。杳の後ろ姿がいきなり遠く感じる。

 杳にこの前会ったのは、いつのことだっただろうか。

 確か杳が高校受験前の夏休み、ということは翔が中学二年の夏。

 今から二年近くも前のことだった。

 この会わない二年間が翔と杳の間に、とてつもない淵でも作ってしまったのだろうかと翔は疑った。

 その次の瞬間、翔の思いは良い方向へと裏切られる。

「翔くん、置いて行くよ。早くおいで」

 そこには変わらない彼の笑みがあった。

 翔は一瞬迷った。が、その表情にわずかな変化が生じた時、翔は杳の方へ向けて駆け出していた。

 杳は翔の荷物をくくりつけると、ヘルメットを翔に投げてよこした。

 翔はそれを受け止め、目を丸くしながら杳と彼の隣に立っている黒いバイクを交互にながめた。

「そう言えば、こっちへ来たの初めてだったよね」
「う…ん…」
「家は近いんだ。ここから歩いて50分くらいかな」

 それくらいかかる距離のことを、少なくとも徒歩では近いとは言わない筈である。

 翔はおずおずと聞いてみた。

「これ……乗るの?」


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