第 1 章
竜神目覚めるとき
-1-
7/10
列車は静かに駅にすべりこんできた。
駅とは言っても駅員の一人もいない、駅名をかかげた看板と古いベンチがあるだけの、無人駅だった。
その駅に葵翔(あおいしょう)は降り立った。大きなスポーツバックをひとつだけ持って。列車は翔だけを吐き出すと、また静かに走り始めた。
翔は列車の音に少し驚いたかのように列車を見遣る。冴え澄んだその瞳に不安の色が浮かび上がる。
走り去る列車。翔はわずかに一歩それに向かって足を踏み出そうとした。
その時だった。
「翔くん?」
名前を呼ばれて、彼は振り返った。そこに立っていたのは、涼しい笑みを見せる従兄弟の杳(はるか)だった。
「よく来たね。疲れただろう」
彼の顔を見て翔はほっとしたような気分になった。今の一瞬までどこか不安に脅えていた迷子のような様子は途端に消え去った。が、その瞳の奥に宿る寂しげな色は変わらなかった。
それに気付いてか、杳は翔の肩にぽんと手をやると、翔の持っていた荷物を受け取った。
「行こうか」
彼は優しい瞳を見せる。見返す翔の目が眩しそうにかすむ。
本当に杳は眩しかった。
最近はほとんど会うこともなかったが、事情があって翔が小学校に上がる頃までは、一緒に育った。その後も休みごとに翔の家に遊びに来ていた従兄弟である。
年齢は翔よりひとつ上であるが、どこか少女めいたその風貌のためか、それとも魂の底に眠るものがふと記憶をかすめた瞬間に垣間見る、せつないほど懐かしいその瞳のためか、翔にとっての彼は昔から一種の恋心にも似た、あこがれのようなものがあった。
いや、はっきりとそれであると言われても翔は怒らなかっただろう。