第 1 章
竜神目覚めるとき
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「ジュン、おいジュンってば」

 ぱしぱしと頬をはたかれて、潤也は目を覚ました。

 眩しい日差しが目に飛び込んできた。その日差しを遮って、陰ができる。

 寛也が顔を覗かせていた。

「あれ?」
「大丈夫か?」

 潤也ははっとして跳び起きる。

 ――ここは一体…。どうしてこんなところに…。

 見回すと、そこには巨大な瓦礫の山があった。鉄筋とコンクリートが崩れた跡のようだった。

 見覚えがある。

 瓦礫の下に見える机や、椅子。

「学校ーっ?」

 潤也は驚いて、寛也の顔を見る。

「俺に理由なんて聞くなよな。こっちが知りたいくらいなんだから」

 そう言って、寛也は崩れ落ちてしまった校舎に目をやった。真剣な横顔が、見たことがないくらい厳しい色を浮かべていた。

 その横顔に聞く。

「あの竜が壊したの?」
「竜?」

 寛也は振り返って、驚いた顔で聞き返す。

「何だよ、それ」
「僕は見たよ。紫色と赤色の二匹の竜を」

 寛也は、少し黙って、それから否定の言葉を口にする。

「おいおいおい、しっかりしてくれよ。おまえ頭打っておかしくなったのか? 竜なんているわけねぇだろ。今朝の俺の話で、気ぃ失ってる間に、夢でも見てたのか?」
「でも…」
「誰もそんなもの見ちゃいねぇよ。聞いてみな」

 潤也はそう言った寛也を見上げる。

 たぶん誰も気付かないだろうが、潤也には寛也がいつもと違っていることが分かった。どこがどうというのではないが、雰囲気が、いつも彼が自分のものとして持っていたものが、うかがえなかった。

 その代わりにあるもの。

 どこか、強い力を感じた。

 と、寛也が何げなく振り返る。

「立てるか?」

 そう言って差し出した手を握って、潤也にははっきり分かった。

「ヒロがあそこから助けてくれたの?」

 そう思った。

 潤也の言葉に、寛也は黙って横を向いた。


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