第 1 章
竜神目覚めるとき
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 去年の入学式当日に、寛也は打ち上げ花火を上げようとして、失敗して暴発させた。

 危うく大惨事になるところだったこの事件は、入学したての高校中に寛也の名を知らしめる結果となった。

 入学早々、一週間の停学と言う汚点を記して。

 本当に、目を離すと、何をしでかすことか。

「ところでジュン、今日の晩メシ何?」

 都合の悪いことだったのだろう、あっさりと話をはぐらかしてきた。

 魂胆は丸分かりだと、ため息をつきたくなる。

「俺、今日、茶わん蒸しが食いたいんだけど」

 ――手間のかかる…。たまには自分で作ればいいのに。

 心の中で不平をこぼす。

 いつでも家事は潤也にまかせっきりで、自分では一切しようとしない寛也である。

 いくら兄弟だからと言って、いくら双子だからと言って、自分は寛也の召使でもないし、こんなに面倒ばかりかけないで欲しい。

 花火暴発事件の後片付けも、潤也がさせられたのだ。近所で寛也が悪戯をすると、潤也が謝って回っている。それで何とか事なきを得てきたというのに、全然分かってないんじゃないだろうか。

 ――もしこの僕がいなくなったら、どうやって生きていくんだろう。

 口に出しはしないものの、潤也はいつもそう思っていた。

 そんな潤也の胸の内に気づかぬように、相変わらず寛也は上機嫌でぐいっと牛乳を飲み干した。

「さーて、今日も元気に出かけるか」

 そう言うと、朝食の後片付けもせずに飛び出していってしまった。

 潤也はまた、ため息をついた。


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