第8章
希望のうた
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「って、一体何があったの?」
翌朝に起きてきた紗和は、翔達3人の様に目を丸くする。
「夜中にまた襲撃でもあった?」
昨夜は札幌から帰って完全治癒した筈なのに、今の翔は目の周りに酷く痣があり、寛也は絆創膏の数が極端に増えていた。露は目の焦点が合っていない様子で、文字通りボロボロだった。
夜中、自分の気づかない間にまた父竜と一戦交えたのかと思ってしまった。そんな気配は微塵も感じなかったが。
「最後にはこいつら、素手で殴り合いを始めやがって…」
露が呆れた顔で言う。
「いえ、少し手合わせをしていただけです。子竜の炎竜がどこまで強くなれるのか知りたくて。そしたら、ちょっと私情が混じってしまい、大人げなかったと反省しています」
翔は苦笑を浮かべてそう言いながらも、自らを治癒していく。すぐに顔のけがは消え失せたが、どれだけやりあったものか、心なしか息も絶え絶えに見えた。
手合わせなどではないと、紗和はすぐに気づいた。
翔は、この二人を鍛えていたのだと。その証拠に、寛也も露も体力はバテバテなのに、竜気の上昇が見られた。多少の私情が混じったと言うのも本当だろう。露よりも寛也の方が疲労度は高そうに見えた。
「こいつ、チビのくせに、やたら強ええの。体力、有り余ってるみたいだから、今度はお前が相手をしてやれよ」
寛也は翔の内心を知ってか知らずか、紗和のそう投げかける。そして、空腹を満たすためにとっとと台所へ向かってしまった。
やれやれと、肩をすぼめてから露も寛也を追って行ってしまう。
それを少しの笑みを浮かべながら見送る翔は、どこか一回り大きくなったように見えた。
「このままあの二人を鍛えたら、勝機は見出せそう?」
「あの二人だけじゃありませんよ。新堂さんにも協力してもらいます」
「僕が?」
「もたもたしていると、すぐに追いつかれますよ。戦はもっともっと強くなります」
そういう翔に、紗和は眉をしかめる。
「信じられませんか?」
「いや、そうかも知れないね」
杳を失った時のあの力がただの暴走でないとしたらの話だと付け加える。
「暴走も持っている力の内です。新堂さんも一度、叩き潰すつもりでヒロ兄と戦ってみたらどうですか?」
「そんな事、笑顔で言うかな?」
「どちらにしても戦力の底上げが必要ですからね。四天王のリーダーが欠けた今、彼らが頼りです」
勿論紗和も同じだという翔に、さっと視線を逸らす。
「僕は御免だからね」
「本気で言ってますか?」
笑みの中にも頑として譲らぬ意思。
「元々、僕は戦いには不向きだよ」
「分かっています。でも、底上げするのは戦闘力だけではありませんよ。防御力も必要です。新堂さん、凪がいないからってサボらないでください。許しませんよ」
「敬語を使いながら上から物を言うのはやめてくれないかなぁ」
そう言ってため息をつく間に、紗和は腕を掴まれた。逃げる間はなく、天上へと引っ張られた。
「元気だな、アイツ」
朝食の卵焼きをひとつかじって、露は窓の外に出現した2頭の巨竜を横目で見やって呟く。それを耳にした寛也は既に口にいっぱいのごはんを入れたまま返す。
「あの年頃は血気盛んだからな」
「お前が言うか?」
聞こえないように呟いた。
ほんの僅かだけ、平和な時間だった。