第8章
希望のうた
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「はぁ?」
あの時、とどめを刺そうと竜剣を振るった翔。しかし、その剣をバリアのようなもので遮る力があった。その時に感じた気は確かに潤也のものだった。執拗に攻めていた父竜の腹の傷を思うと、守りの為のバリアを、もしかすると傷口を塞がない為に使ったのではないだろうか。
「って、どう言うことだ?」
寛也が首を傾げる一方で、露が少し嫌な顔をして見せた。
翔は苦笑する。
「分かりませんよ、はっきりとは。でも傷を負った父竜なんて見ることも少なかったですし、あれだけの深手も…。風竜にそれだけの力があったことも意外でしたが、術を交えての戦闘方法が凪の得意とするところでしたから、攻撃しながら何らかの術をかけていたんじゃないかと思ったんです」
「え? え?」
寛也はなおも首を傾げる。
「つまり、傷を負った場所を治癒できないように術をかけたんじゃないかと思うんです」
「じゃあ、ドバドバ血が流れ出て、死んじまうじゃないか」
寛也もさすがに引き気味で言う。
「父竜はそう簡単には死なないと思いますが。でも、竜気は失われ続けるでしょうね」
「陰湿…」
露は心底嫌そうに呟く。
「僕の想像ですけどね。それに、この方法、潤也さんは杳兄さんの症状からとっさに思いついたのかも」
ああと、呟く寛也。
杳の身体にできた傷――治癒は完璧だった筈なのに、失われていった生命力。潤也はそれを思い起こしてのことだったのか、それとも自分の思い過ごしなのか。
「で、その傷が治らないうちに畳みかけるように攻撃しに行くってことか」
「それって、なんか卑怯だな」
露、寛也の順で言う。そんな事を言っている場合ではないが、この期を攻撃に利用するか、それとも――。
「取り敢えず新堂さん達が起きて、杉浦君達を帰してから、もう一度みんなで話しましょう」
「じゃあ、明日の決戦はないのか?」
少しがっかりする寛也。
「決戦はないと思いますが、少し身体を動かしてもらおうと思っています」
「おっしゃ、何すればいい?」
食い気味み聞く寛也。
「それはまた、明日。二人とも今日のところは、そろそろ休んでください」
「お前は?」
「僕はここの守りです。新堂さんが起きたら代わってもらいます」
「じゃあ、話し合いはいつするんだ?」
「ヒロ兄、1日は24時間あって、睡眠時間8時間でも、差し引き8時間は二人とも起きているんですよ」
普通なら潤也が突っ込むような内容を、苦笑を浮かべたままの翔が言う。
「んじゃあ、オレ、寝てくるわ」
露は聞かなかったフリをしてそのまま退出しようとするのを、後ろから襟首を捕まえる寛也。
「お前も起きてろ。俺らまで寝ることねぇって、こいつ言ってんだから」
「は?」
寛也の言葉に、翔はきょとんとする。
「全員起きている時間は8時間あれば十分だって」
「えーっ、でもオレ、夜は寝たいしぃ」
「そうですよ。二人とも寝てください。夜寝ないと。身体がもちませんよ」
翔は、寛也にそういうと、睨まれた。
「お前な、そんな事を言うなら自分も寝ろよ。上から目線でご託を並べてばっかで、偉そうにしてんじゃねぇよ」
「え?」
今までの物分かりの良さは何だったのかと思える寛也の言葉に翔は面食らう。
「それに、杳に似た顔をして無理ばっかしてるの見てると、頭にくるんだ」
ああ、そうかと翔は思う。これは寛也なりの優しさなのだと知る。自分はこれまで酷い色眼鏡で見ていたのかも知れない。
まっすぐで、不器用だが、本心で優しいのだ。
「僕は100年くらい寝なくても平気ですが…。わかりました」
翔は小さくため息をついて見せ、立ち上がる。
「では、寝ないのなら、二人ともちょっと付き合ってもらいたいことがあります」
少しだけ不敵に笑う翔に、寛也も露も、この後大きく後悔することになる。