第8章
希望のうた
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札幌までの往復と言っても翔の瞬間移動を使ってのことだったため、さして時間は取らなかった。行きたいと言っていた寛也も、現地で長居をすることもなく、あっさりと引き上げてくれた。
翔はさすがに疲労感を感じたものの、潤也のいなくなった結界内の統制を保つための方策を考えなけらばならなかった。
元々、潤也に祭り上げられ、それらしく振舞っていたのだが、何とも心許ない気持ちは拭えなかった。
それが単なる甘えだったとすぐに気づいたのだが。
一日中救助活動をしていた紗和達には早々に休むよう告げ、取り敢えず今夜のところは聖輝によって強制送還された美奈以外の三人は結界内に留めたが、明日の朝早々には家へ送り届けるつもりでいた。その後、彼らの家族の記憶の操作をしておかなくてはならない。
それから、今後の食料をどうしたものか。
アパートの管理はきっと寛也ではほとんど役に立たないであろうから、何とかしなくてはこの結界も危うい。
そんなことをぶつぶつ呟きながら紙に書き出していると、寛也が笑いながら声をかけてきた。
「んなもん、明日にでも決戦してしまえば済むんじゃねえの?」
「オレ、全然行けるし」
露まで加わってきた。
もう深夜も相当に遅いのに、明日決戦なんて、本来誰も回復しきっていないだろう。
勿論、傷は治せるが、基本的に、消耗した体力と精神力を何とかしないと戦いにもならない。 今、順番で休むことで回復を図ろうとしているのにいきなり何を言い出すのかと、翔は二人を見やる。
「俺も大丈夫だ。食って寝たし、やるなら相手の回復を待つこともねぇだろ?」
深夜ハイかと思われる二人に、翔は指先でこめかみを抑えながら。
「こちらの回復も必要です。それに多少ですが、僕に案があります。計画を練らせてください」
「下手な考え休むに似たり」
そう言った露は翔に睨まれ、肩をすぼめて見せる。
「これまではろくな態勢も取れないまま向こうの攻撃を迎え撃っていましたが、次はそうも行かないと思います。潤也さんもいませんし、できれば全員で力を合わせていきたいので」
「お前、勝つつもりなのか?」
露が少し意外そうに翔を見やるのに、当然のように返す。
「そのつもりだよ」
「水穂、やる気ねぇならお前も帰れよ」
翔の言葉を継いで寛也も言う。
「いや、待て待て、冗談だってば」
すぐ本気にするんだからと、露は独り言つ。
自分だとて最初からそのつもりで仲間になったのだ。本気で勝てるとは思っていないが、かと言って負けるとも思っていない。
「そんなことより、今言ってた『案』って、教えろよ」
このままでは仲間外れにされかねないと、露は慌てて話題を戻す。
「まだ頭の中が纏まっていないから少し考えさせて。ただ…」
ふと、翔は口ごもる。
「いや、でも、あれは…」
ひとり呟いて首を振る。
「何だよ、言えよ」
寛也の問いに、翔はしばし考えてから言葉をつづる。
「…もしかしたら、潤也さんの術が父竜を封じたかも知れません」