第8章
希望のうた
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 寛也を連れて、瓦礫の山があちこちに散らばる北の地に再び降り立ち、翔は辺りの気配を伺う。
 日の暮れたその地には、既に父竜の気は感じられなかった。ほっとして、緊張を解く。

 先刻潤也達が助け出した人達は、自衛隊の救助により避難所へ移動したのだろうか、辺りには人の気配も感じられなかった。遠くに見える明かりがそれだろうか。

 夕刻になって寒さが増してきたと、身震いをしてから、上着を持ってくるべきだったと後悔する。吐く息が白くなってきた。

「なぁ、ジュンは本当にもういねぇのか?」

 つと、寛也の問いに振り返る。
 寛也は眉を寄せ、少しだけ首を傾げながら、潤也の気配を何とか手繰り寄せているように空に目を向けていた。

「風竜の気をまだ感じますか? まだ残り香が漂っているんですよ。凄まじい勢いの気の放出がありましたから。父竜が腹にかなりの深手を負うくらいの」

 先の戦いにおいても、あれ程に強い風竜の力は見たことがなかった。それまで隠していたとは思えない。この数千年の年月で確実に力をつけたのか。それとも――。

「どちらにしても、四天王はまだ成長途中ってことか…」

 呟く翔。
 子竜から成竜へ羽化した後の炎竜の成長も甚だしいが、今回の風竜の力と言い、彼らはまだまだ強くなるのではないだろうか。そこに光明を見出すこともできるかも知れない。
 ただ、その中で風竜――潤也を失ったのは何とも悔しかった。
 しかし、自分がくじけていてはならないと決めたのだ。みんなを率いて、先頭を切って戦うのだと。
 だから、立ち止まってはいられないのだ。

「なぁ」

 ふと振り返り、寛也は尋ねると言うよりも確信に近い口調で翔に問いかけてくる。

「ジュンはまだ生きてるんじゃねぇのか?」

 そんなことはないと言うより先に続けられた言葉。

「竜気とか、そんなんじゃなくて、なんて言うか、勘って言うか…うまく言えねぇけど、ジュンはまだいる気がする」

 気持ちは十分に分かる。今の自分の決意を、潤也と兄弟であった寛也に押し付けるつもりもなかった。

「そうですか…」

 翔は否定とも肯定ともつかない言葉で返した。
 その翔を寛也は少しだけ困ったように見返して、それでも口を閉じた。



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